5.27
午前6:30、僕は各部屋にモーニングコールをした。
皆1時間ちょっとしか寝てないであろうが、7:00にホテルを出発する予定なので仕方ない。
泥酔状態のままロビーに集まり、昨晩のギグの成功を讃え合うが、チェックアウトでエロビデオ代を払うというイマイチきまらないロックスター。
逆にいずみちゃんは、目の座り方といい、ろれつの回らなさといい、一番キマっちゃってる。
タクシーでニューアーク空港へ向かってもらうのだが、一番キマってる女のロケンロールな通訳のせいで、出発ロビーと関係ない所に着いてしまった。
空港内で朝食をする。
まだ酔いの褪めぬ体に、昨日の昼食以来の固形物を入れた。
さすがの土井ちゃんも今回ばかりはアルコール抜きだ。
久しぶりに栄養を摂取して皆元気が出て来たようである。
モノレールに乗って出発ロビーへ移動する。
それにしてもコンチネンタル航空のチェックインの連中は全くロクデナシ揃いである。
ロクデナシAは無言でいずみちゃんのチケットを受け取ると、面倒臭そうに処理を始める。
「5人です」と言うと、オーマイゴッド顔になり、ロクデナシBが「じゃあ早く5人分出せ」と机を叩いて催促する。
処理をしている間もロクデナシどうしでお喋りをしまくり、余りにも時間がかかるので僕らの後ろには順番を待つ列が出来てしまった。
ロクデナシCがやって来て、仕事を手伝うのかと思ったら、AとBにチョコを差し入れ、お喋りに加わっただけである。
列は増々長くなるのに、A、B、Cのロクデナシ三人衆はチョコを食いながら喋りながらの能率の悪い仕事をしてやがる。
チンタラチンタラしてるくせに、こっちが荷物をハカリに乗せるのをうっかり忘れていると、Bは早く乗せろ!と机をバンバン叩きやがるのだ。
おおっと!
ここで原監督の登場であります!
頭に乗せているのは巨人帽ならぬリーゼントであります。
タケシはワナワナとうち震えながら、「こいつら…」と思わず声を漏らしている。
いつもなら彼の怒りを鎮めにかかる我々であるが、今のオレ達の心にあるのは銀蠅一家のプライドだ。
うちのリーダー、ナメんなよコラァ!
ドカンを決めてヨーラン背負うぞコラァ!
と言うよりも早く(言うわけない)、リーダー直々によるありがたい『ガン』が飛ばされたのである。
上目使いといい、アゴのしゃくり具合といい、横浜の意匠を受け継ぐ完璧なフォームだ。
しかしロクデナシどもはまだチョコをモグモグと頬張っている。
横浜が産んだローカルな伝統芸能『ガン』も、NY在住の彼らには伝わらなかったようだ。
…でもその熱い気持ち、オレ達には伝わって来たぜリーダー。
荷物チェックのゲートへ行く。
平野さん、土井ちゃん、いずみちゃんと、チェックは滞り無く進むが、一度機械を通過したタケシの荷物はなぜか戻って来た。
突然赤いランプが作動し、4、5人の係員がタケシの所に集まって来る。
何やら問題があったようだ。
係員達は彼を取り囲み、腕組みをして考え込んだり、なぜだか係員どうしで口論を始めたりしている。
『ガン』家元である中塚流宗家は、普段ならケンカ腰で挑んで来る者には自然とメンチを切ってしまうので心配だったが、今のところおとなしくしている。
何しろテロ警戒中なので、そんな行為はいたずらに彼らを刺激してしまうだろう。
しかしますます増えてくる係員。
いずみちゃん達は既にゲートを越えた所、つまり法律的には国外にいるため、もう一度戻ることができないので、彼はこれら係員達とたった一人で応対しなければならない。
せめて国内側にいる僕が近付こうとすると、その線を越えるな!と注意される。
彼は焦りのためこの事態を対処しきれない。
ヤバい、連れていかれる!
しかし問題はテロとは関係なく、どうやら荷物の個数にあるらしい。
『手荷物は2個まで』というのが搭乗時の常識らしいのだが、タケシは4個も持っているのだ。
若大将の蒼顔ぶりに思わず笑いそうになるのを状況が状況だけにこらえていると、「お前もだ」と係員。
あ、僕も3個持ってたでやんの。
国外のいずみちゃんがゲート向こうで荷物を振り分けてくれたお蔭でなんとか荷物チェックを通過。
ロビーでは土井ちゃんが「いや、まだいい方ですよ」と、彼自身のアフリカ旅行での体験を聞かせてくれた。
ホントに、それに比べればさっきのなんか屁みたいなもんだ、と思える程に悲惨な体験談であった。
「これくらいで済んで良かったのかもしれないね」
しかしこの後、コンチネンタルのロクデナシによる、思いもよらない復讐が!!!
席がバラバラである。
「5人を近くの席に」とチェックインで告げておいたのに、である。
これにはさすがのリーダーも原監督ばりの苦笑いを隠せない。
しかも全員がトイレに行きづらい3人掛けの真ん中、僕など両サイドが日本人のババアだ。
アメリカに留学している娘の自慢話などしてきて、ウザイったらありゃしない。
「あなたもお勉強で来てたの?」とか訊かれたので、仕方なくライブの事を話すと、
「好きな事をして人生を送れるなんていいじゃない。がんばってね。」
と励まされた。
…まあ、そんなに悪くない種類のババアだ。
ニューヨーク旅行の最後を飾るにふさわしい(?)、中の上レベルのババアのエールによる感動のフィナーレである。
僕はエールに答え、両サイドの肘掛けを占領したまま眠る事に成功したのだが、トイレに立ったら肘掛けは取り返されていた。
さすがババア。
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