5.26


 早起きした僕はグラウンドゼロを見に行く。
ホテルから南へ15分位歩くと段々空気がホコリっぽくなっていき、至る所アスファルトが剥がされ、道路は封鎖され、多くの警官によって警備されているエリアに到着した。
 4年前、QYPTHONEがニューヨークでライブを演った会場は2つあり、『Cooler』というクラブともう一つはワールドトレードセンターの106階であった。
特に後者は大変な盛り上がりで、800人近いオーディエンスに1stの『トリエステ』のダンスを踊らせるなど、海外でのライブの手応えを初めて感じ取った、我々にとって思い出深い場所である。
 フェンスに殉死した消防隊員の写真、教会の寄せ書き、作業によって地下5階近くまでえぐり取られた現場を目にして、言葉を失ってしまった。

 複雑な心境でホテルに帰ると、皆もう起きていたので、いずみちゃんの友人が教えてくれたキューバレストランへ食事に向かった。
その道の途中で、太った黒人の若者がおひねりを入れてもらうためのキャップを手に持って歌っている。
「♪今日のオイラの声はサえてるぜ〜」
みたいな歌だったので、詞の内容と彼の体型からジャイアンを連想してしまったが、ストリートミュージシャンながらその歌の力量は高い。
 HAVANAのウェイトレスはとても可愛くて愛想がいい。
グリルドコーンをはじめ、他に頼んだ料理も今回の旅行随一の美味さであった。
食後、タケシはグラウンドゼロへ、土井ちゃんと平野さんは地下鉄で楽器屋街へ向かった。

 いずみちゃんと一緒にソーホーでぶらぶらしていると、楽器屋街へ行っていたはずの平野さんがせわしく色々な店を出たり入ったりしているのを発見。
「ちょっと高かった」からソーホーへ戻ってきたのだそうだ。
それにしてもすごい行動範囲の広さと決断力の速さだ。
彼の頭の中では、残された滞在時間をいかに効率良く使うかを計算しているのであろう。
「色々撮っちゃった」とデジカメの画面を見せてくれた。
そこには我々には見せない超浮かれまくっている平野さんの姿が写し出されていた。

 早起きしてしまった僕は部屋に帰ってから少し眠る。
寝ている間に土井ちゃんも帰って来たようで、僕が目を覚ます度にビールの空き瓶が増え、彼はなぜかどんどん薄着になっていっている。
寝酒のつもりでビールを飲んでいたが眠れなかったらしく、真っ赤に染まった身体から湯気が立っている。
5日間のアルコールの蓄積によって可燃性と成った彼のボディーは、火を近付ければ爆発するに違いない。
ライブ前のテンションとしては完璧だ。
 タケシの部屋で演奏する曲のチェックを行い、いよいよ出陣である。
いずみちゃんが「緊張してきた…」と言ってるので、「ロッキー、お前はやってくれる。お前はやる男だ。」と勇気づけた。

 会場に入った時にはステージでSpoozysが演奏していた。
海外でのライブが多い彼らは、さすがに高いボルテージで観衆をあおっている。
(前回のNYツアーの時もワンステージ目は彼らと一緒だったのだ)
イベントを取り仕切るティムはこれまたすごいボルテージでテンパっているようだ。
このイベント自体かなりの強行軍で、どのバンドもリハーサル無しのぶっつけ本番である。
いずみちゃんもライブ会場と外のバーとをせわしなく行ったり来たりしており、来る度に手にした酒の種類が代わっている。
土井ちゃんと平野さんは楽器をこちらでレンタルしてもらっていたのだが、ライブ直前まで触ることができないため、不安そうだ。
しかしフロアに続々知人が現れてくると、少し緊張がほぐれ、平野さんはその知人達に向けデジカメをガンガン連写している。
 デトロイトで活躍している日本人2人のユニット「HIMAWARI」のライブが終わった。
いよいよ次がライブのトリを務めるQYPTHONEだ。
黒づくめの怪しい日本人がセッティングで奇妙なサンプリング音を鳴らしていると、バーに居た人達も興味深げに集まって来た。

 打ち込みと本格派ウッドベースのグルーヴでスタートである。
ここにパーカッションとバカサンプルが重なれば、ニューヨーカー達はリズムを取らざるを得ないのだ。
フロアで踊りまくっていたはずの女がボーカルとしてステージに上がると、雄叫びとともに会場が更に熱を帯びて来たではないか!
よーし、ギアをトップに入れちゃうゼ、ついて来いよニューヨーク!
雷怒音!(とかは言ってない)
ライブが進むにつれ、やつらの動きは各々の特徴を顕著にして行く。
ニューヨーカーはノリを周りに合わせようという気など全く持ち合わせていないのだ。
自分なりのやり方で踊り狂い、しかもなぜか会場全体としては一体感がある。
おお!この一体感!
これだけのためにニューヨークに来たようなものだ。
性欲食欲排泄欲が一気に満たされるがごとき快感である。
MCもほとんど無いぶっ続けの演奏に、体を揺さぶり続けるオーディエンス。
言語を超えたコミュニケーションというものがあるとすれば、こういう事を指すのであろう。
これならもはやスリッパとペプシを間違えたりはしないのだ!

 楽器のトラブルがちょっとだけあったりしたが、最後までバーに客を戻さない最高のライブを披露出来た。
舞台袖に降りても拍手が鳴り止まない。
メンバー全員で握手を交わす。
「最高!」とライブの成功に対する土井ちゃんの言葉は全く率直だ。
一方、喜びを酒の量で表現するいずみちゃん。
サユミさんもティムもようやく仕事から解放されて、すがすがしい笑顔で我々を迎えてくれた。
「またNYでイベントやりましょう!」と約束をし、彼らとはここでお別れとなる。
色々お世話になりました!

 ラストを盛り上げる福富さんのDJによって、ライブ会場はダンスホールと化す。
「眠くなったので寝ます」と言い残し、率直な男は先にホテルへ帰って行った。
桟橋の周りのハドソン川がしらじらと姿を現すまで、宴は続き、終わった。
後は飲み過ぎな女の後始末だ。
コワモテの黒人のタクシーの運ちゃんに喧嘩を売り、午前5:00なのにマクドナルドに行くと言い、次第に言葉の意味すら解読できなくなっていく猛獣を3人でボディーガードしつつ、やっとの思いでホテルの彼女の部屋にねじ込むことに成功した。
安堵の床に就くが、ホテルチェックアウトまであと2時間と迫っている…

 


グラウンドゼロ


FryingPanに来てくれたダン君


HIMAWARI

ライブスタート!

フロアからステージへ上がるいずみ

土井ちゃん

平野さん

QYPTHONE

おどるオーディエンス

ライブ後、シオン達と

DJ福富さん

おどりまくり

ナンパされまくり