5.25


 VS1680の曲データをセーブしている間に、タケシはマンハッタンまでジョギングをして若大将ぶりをアピール。
これで体調も機材も万全である。
 昼過ぎ、ソーホーグランドホテルに到着。
ソーホーの中でも有名なホテルだそうで、すっかり外タレ気分である。
調子に乗って、近くの超高校級イタリアンレストランに入る。
木漏れ日の射すテラスのテーブルに並べられた料理を前にして、VIP待遇愛好家のいずみちゃんは薄ら笑いを絶やさない。
たっぷり時間をかけてランチを済ませた我々は、ソーホーの街にショッピングに出かけたのだった。

 ショッピングを終えてホテルに戻ってしばらくすると、「ソーホーは銀座みたいでイマイチ」とか言いながら平野さんが最後に帰って来た。
そんな言葉とは裏腹に、街の隅から隅まで見て回ってヘトヘトになっているところをみると、心底楽しんできたことがうかがえる。

 明日ライブを演るFryingPanへ下見に行く。
しかし、平野さんと二人で乗ったタクシーの運ちゃんがすごい荒っぽい運転で、前を走っていたタクシーが客を降ろそうと停まると、
「道のまん中だバカヤロー」
と怒鳴ったかと思うと車を降り、前のタクシーへ駆け寄って無理矢理客を引っ張り出し、車に戻って「問題は解決した」とか言って急発進し、タイヤをキュルキュル軋ませながらコーナーを曲がり、遅い車に横付けしては、
「おめえは運転すんじゃねえバカヤロー」
と怒鳴り散らす。
平野さんも僕もすっかりビビってしまい、運ちゃんは「ノー・プロブレム」とか言って僕らを安心させようとするのだが、着いてみると他の3人はとっくに着いていて、どうやら運ちゃん、急いでいるふりをして随分遠回りしたらしい。

 FryingPanは古い船の船室と桟橋をイベントスペースとして利用している場所で、船の方は川に浮かんでいるのだ。
いよいよ明日ここでライブをやるのだ、と思うと少し身が引き締まる。

ホテルに戻り、タケシと平野さんの部屋に全員で集合して明日の打ち合わせを始めたのだが、なぜかエロビデオをつけてしまい、誰一人として話に身が入らない。
なにしろアメリカ産のお宝動画なので、直球一本勝負だ。
うちのメンバーには一応女子が一名いるので、皆何となく気まずくなり、「眠いなあ」とか言って見ないようにする者、「美味いなあ」とか言って買ってきたマクドナルドに集中する者が続出した。
その点、僕はこの手の物ならほぼ毎日観ているので、気まずさとは無縁だ。(素敵ね)
ビデオと打ち合わせ、両方に集中することが可能なのだ。(素敵だ)

 ホテルの2階のラウンジでursula1000のアレックスがDJをやるので、QYPの3人で昨晩行けなかったお詫びがてら遊びに行った。
ソファーに座って3人で喋っていると、ハリソンフォードに似たバルセロナ出身の男性とその彼女が隣に座り、話し掛けてきた。
意気投合したいずみちゃんとその彼女は踊りに行ってしまい、何も話す事がない男どもが残された。
ハン・ソロは僕のタバコの箱を見ながら、「このタバコはどこで作られているのか」とか、「君はこのタバコが好きか」とか、やけにタバコの話ばかりする。
「イエス」、「ノー」と素直にその質問に答えてあげたのに、彼は浮かない顔で「あ、そう…」と言い、まだ「この箱のデザインはいいね」とかいっていつまで経ってもタバコの話を止めないので、「吸いますか?」と勧めると、「あ!そう?」と満面の笑みを浮かべて一本取った。
タバコが欲しかっただけのようだ。
 すると突然後ろから肩を叩かれ、「タバコくんない?」と会ったこともないフィリピン系の酔っぱらった若い女が勝手に一本取っていった。
すると隣のインディージョーンズ魔宮の伝説は、僕の方を見て「まったくねえ」という顔をしたのだが、やってることは似たようなものだ。
その後、遠慮が無くなったジョーンズは僕のタバコをバンバン吸っている。

 帰りにフィリピン女が「日本語知ってるよ、ちんちん!」と唐突に言ってきた。
僕も相当酔っぱらっていたので、とりあえず、
「イェ〜イ、ちんち〜ん!」
とハイタッチをかまして別れた。
ニューヨークにいると奥ゆかしさが失われてしまいそうだ。

 


ここはくつろぎの別世界
SOHOグランドホテル


近くの高級レストラン『BOROLO』では


本格派イタリアンを
お楽しみいただけます

本格派アメリカンも
お楽しみいただけます