5.24


 朝はアパートメントの中庭で土井ちゃんと一緒に喫煙タイムだ。
隣人が出入りする度に「ハーイ」と挨拶を交わす。
中にはやけに人なつっこい隣人もいて、笑顔でこちらへ近付いて来た。
英語があまり得意ではない僕は、彼が近付いて来る間に頭をフル回転させて、これから行われるであろう会話をシミュレーションしておくのだが、実際口から出るのは「イエス」「ノー」「クール」のみである。
しかしそれだけでも充分コミュニケーションが取れるのだから嬉しい。
(平野さんに至ってはこちらに来てから日本語しか話していない。)

 サユミさんと一緒にブランチに行く。
ブルックリンラガーという御当地ビールを飲んだ。
それにしても土井ちゃんは毎食、大量のビールを自慢の腹に詰め込んでいる。
さすがは孤高のジャズメンだ。(そして小太りトヨエツだ)
 食後、土井ちゃんは他の街に住む友人に会いに行くため地下鉄の駅へ向かった。
我々は近くのお店を見て回る。
タケシが服を買うと、その店は今日開店したばかりで初めての客ということで、Tシャツをサービスしてもらっていた。
いずみちゃんは二番目の客ということで、Tシャツをサービスしてもらえなかった。
店を出た後で彼女はブーブー言う。
平野さんは「スリッパを買いに行く」と言って一人でデリに入って行ったのだが、なぜかペプシを買って出て来た。
スリッパ、ペリッパ、ペプッパ、ペプッシ、ペプシ。
なるほど、ちょっとしたコミュニケーション上のミスがあったようだ。

 今夜は友人のursula1000のアレックスのイベントがあるのだが、タケシもいずみちゃんも少し風邪気味、僕と平野さんも疲れているようなので一度寝てから行くことにする。
ところがこの仮眠がまずかったようだ。
予想以上に疲労がたまっているようで、誰一人として起きない。
いや、実際には何回か目覚めているのだが、眠たくて起き上がる気力を失っているのだ。
最大の勇気を振り絞って「…行く?」とおそるおそる問いかけると、「…1時間後に」と、か弱くも『あと1時間寝れる』という希望に満ちた答えが返ってくる。
「行く?」「1時間後に」の問答を儀式のように何度か繰り返しているうちに、深夜2時をまわってしまった。
 土井ちゃんとサユミさんが帰って来た。
サユミさんは惰眠をむさぼる4人を見て、「行かなかったの?!」とひどく驚いたようだ。
眠らぬ都市・ニューヨークを向こうにまわすような行為なのだから、その驚きももっともだ。
 げに恐るべきは疲労である。
「ライブ当日じゃなくて良かった…」
時差ボケに因るものか、環境の変化に因るものか、いずれにしても今日の睡眠で体調が回復すればよし、としなければならない。
土井ちゃんによると、T村延Kさんは機材のトラブルか何かで出演できなかったらしい。
 げに恐るべきは機材のトラブルである。
本人の気持ちを思うと可哀想であるが、
「オレ達じゃなくて良かった…」
と思いつつ、更なる深い眠りに墜ちる。
明日は機材のチェックをしよう。

 


小太りトヨエツ

いずみちゃんとサユミさん

仲良くブランチに行くところ