5.23


 意外にも普段通りに眠れた。
普段通りということは、平野さんは寝言、僕は歯ぎしり、タケシは徹頭徹尾うつ伏せということだ。
長年の腐れ縁で寝姿を見慣れているこの3人はいいだろうが、初めて寝食をともにする土井ちゃんにとってはショッキングな一晩であっただろう。
 カフェでブランチを食べてから、レコード屋やデリで買い物をする。
抜けるような青空が広がり、初夏のような陽気だ。
湿気が無く空気が澄んでいるので、川向こうのマンハッタンがやけに近くに見える。
 一度部屋に戻りさっき平野さんが買ったサルサのCDを聴きながらビールを飲んでいると、興が乗ってきてしまい、ひとの部屋だと思って大音量でCDを鳴らす。
マンハッタン、サルサ、バドワイザー。
「う〜んニュー・ヨーク」
と感動しながらも『ぷりぷり県』を読むという罰当たりな私達。
そんなのん気な東洋人一行は、ホロ酔い加減のままマンハッタンへ向かうことにした。
 メトロカードの買い方が分からず困っていると、ドレッドヘアーの可愛い黒人の女の子が教えてくれた。
そう、ここではオレ達、イナカ者なんダス。
だから今日はNYの観光名所、セントラルパークに行くんダス。

 51番街駅から地上へ上がり目的地を目指すのだが、地図上の1ブロックが思った以上に広く、行けども行けども高層ビル群で不安になる。
30分位歩いた頃、ようやく公園らしき林が現れてきた。
振り返ってウチの女王の様子を見ると、完全にアゴが上がっており、セントラルパークなんかもうどうでもいいという顔をしていた。
 しかし、パーク内でアイスを食ったり、リスを発見したり、芝生でゴロゴロしたりするうちに、女王の御機嫌もだいぶ晴れなすった。

 Japan Societyのビルに到着。
同じフェスティバルに参加する大手日本レーベル(○VEXね)のアーティスト達が、ここでシンポジウムを行うのだ。
内容的にはすっかり退屈してしまったが、韓国期待の星(もちろんアノ娘ね)のビデオクリップが流れている間中ずっと○VEXの同僚のはずのK田K未さんがつまんなそーにしていた点、その倖D來MさんがDJspookyの事を「スクーピー」と呼んでしまい場内大爆笑になった点、 T村延K氏のファンがみな眼鏡&長髪後ろしばりであった点などは良かった。

 地下鉄でカナルst駅へ向かう。
さっきまで隣に座っていたガラの悪い少年が、途中の駅で降りて窓の外からこちらを指差して、
「や〜い××××××!」とか言って笑っている。
窓の外だったので何と言ったのかは分からぬまま、電車は発車してしまった。
明らかに僕らを指差していたので、何を笑われたのかと各々の弱点を再点検する。
しかし全員、カツラのズレはないし、ビキニラインの処理もバッチリだ。
東洋人がそんなに珍しかったのだろうか?
「何なんだっつーの」と明らさまに不機嫌そうな銀蠅の翔(タケシ)。
しかし土井ちゃんは軽く「気違いですよ、気違い」と少しも取り合わない様子だったので、
「なあんだ」
気違いならしょうがない、と一同納得した。

 カナルst駅を出るとすっかり陽も落ちており(緯度が高いのでこちらの日没は午後8:30頃)、店の少ない地域なので街全体が暗い。
ニューヨークも治安が良くなってきたとはいえ、さすがに夜は恐いムードだ。
交差点で一人でつっ立ってるヤツ、閉まったシャッターの前でつっ立ってるヤツ、歩道につっ立ってビールを飲んでるヤツなど、どいつこいつも意味不明である。
自分達の歩いている後ろから突然大声などが聞こえると、いちいちドキッとさせられるのだ。
なるべく明るい道を通っていると、日本料理屋があったので大使館に駆け込むかのように入っていった。
 馴染み深い顔だちの店員、壁の掛け軸などに囲まれて、我々の気分もようやく落ち着く。
すっかり安心して「すいませーん」と日本語で呼び掛けるが、なぜか店員はシカトである。
よくよく店内を見渡すと、なぜか門松のような物体が天井から吊るされ、熱帯魚と思しき蛍光緑色の魚の模型が壁に飾られており、およそ日本情緒とは程遠い。
この不風流さはさっき以上に意味不明だ。
それもそのはず、店員は全員中国人のようだ。
中国人板前のイナセとは言い難い着こなしを見るにつけ、今日のディナーへの期待は完全に醒めていたのだが、ドラゴンロール、カリフォルニアロールなどは美味かった。
味噌汁は食えた物ではなかったが…

 カナルストリート近くのクラブイベントでDJをする福富幸宏氏に会う。
26日には同じ会場で共演する予定だ。
「ライブ当日もよろしく!」と乾杯をしたのである。

 


写真を撮る平野さん


黒人親子とタケシ
(余りにも素敵なので画像処理しました)


セントラルパーク

リス

Japan Societyのビル
右端はティム


Canalのクラブにて

福富さん

眠そうな平野さん