2002年5月のニューヨークライブの御報告です。



5.22


 ニュースによると『週末に新たなテロの可能性』だそうである。
手荷物チェックの厳しさが予想されるが、怒濤のドイツツアーでの経験があるので、特に心配はない。
心配のタネといえば、横浜銀蠅のタケシ(ジョニー)がチェックインの度に係の人と喧嘩をすることくらいであるが、彼の方を見ると笑顔の原監督に超似ているので今のところは上機嫌なようだ。
 チェックイン後に空港のレストランへ行っても、彼はカレーを食べ、ラーメンを食べ、なおかつ原監督に超似ているので、気持ちにゆとりがあるのだろう。
「楽しみですねえ」という率直な土井ちゃんの言葉通り、不安や焦りとは無関係の余裕のスタートだ。
旅馴れたいずみちゃんなど、一軒目NEX、二軒目成田空港という飲み会をこなすかのように段々酔っぱらってきており、すでに旅という意識すら欠如している。
 しかしここに、素直に「楽しい」と表現しない一人の男がいた。

 平野栄二である。

 空港で会った時から、彼にしてはやけにもの静かで、他のメンバーのはしゃいだ感じとは明らかに違ったムードを醸し出している。
「美味いモンも食い納めだなあ…」
とか独り言を言いながら、トンコツラーメンをすすっている。
NYの食事情に対する皮肉なのであろう。
普段から毒舌家の彼だが、微妙にクールさを保とうとしている点がいつもと違う。
「こういうのは向こう行ったら食えないからな〜。ああ、うまい」
ふつうに聞けばこのような発言は「かわいくない」が、私は敢えて、
「栄二は今、カワイイ」
と提案したい。
 私は知っている。
彼が1ヶ月前「あと1ヶ月かあ」と呟き、先週「来週ニューヨークかあ」と言い、3日前「3日後かあ」と、今回の旅をメンバーの誰よりも気に掛けていたことを。
NY初上陸となる彼の胸に去来する期待、不安、緊張---そんなものを思えば今の彼に「かわいくない」という形容は相応しくない。
 僕は「栄二ったら、素直じゃないんだから!」と密かに思いながら、愚痴っぽくラーメンをすするクール・ガイを目を細めて眺めていた。
しかしおそらくすぐに、彼のそんな偽りのマスクは剥がされることになるだろう。
素顔のアイツはもっと熱く(暑苦しく)セクシーな(セクハラ社長な)男なのだから…

 ニューアーク空港に到着。
ケーブルや楽器類を手荷物として持ち込むと、出国、入国ともに何度も荷物検査をされた。
時限爆弾か何かと疑われるからだろうか。
やっとの思いでチェックアウトし、タクシーでブルックリンへ向かう。
 ブルックリンには今回のイベントの企画者であるティムとサユミさんのアパートメントがあり、そこに泊まらせてもらうことになっている。
彼らと初対面の土井ちゃんは「豊川悦司に似てますね」と言われて、かなりモチベーションが上がっている。
タケシが「あ、いいな〜土井ちゃん」と羨ましがっていたので、「タケシも原監督に似てるよ」と言ってあげたらなぜか不服そうにしていた。
皆で一緒に近くのレストランへ行き、ボリューム満点の夕食をする。

 やがて酒が進むにつれアメリカの雰囲気に馴染んできたのか、徐々に平野さんがいつものペースに戻って、饒舌になってきた。
毒舌でティムを困らせるし、店員にはずっと日本語で話し掛けている。
「会計、俺が持ちますよ」と太っ腹なところを見せるのは嬉しいところだが、「ごちそうさまです」とサユミさんが礼を言うと、「いや、いいですよカラダで払ってくれれば」とセクハラ社長 in New Yorkなのである。
心配そうにティムが「何て言ったの?」と聞くと、「いや、オレ、ホモなんですよ!」などと訳の分からないことを言う。
 部屋に戻ってからも彼は喋り続け、いずみちゃんやタケシは逃げるように先に寝てしまった。
パンデイロを打ち鳴らしながら、「えへへへェ」とか言いながらベッドで寝ようとしている僕にふざけて抱きついてくる。
実にかわいくない。
そうかと思うと、ベッドの反対側ではマイペースな土井ちゃんがティムの家にあったエロ本を読んでいて、こっちも何というか、暑苦しい。
そんな二人に挟まれてるから、僕はあまり良い眠りには就けないと思う。

 


ティムの部屋に飾られたイラスト作品の前で
(彼はイラストレーターなのです)
そして平野さんの顔を見よ


ボリューム満点

眠る土井ちゃん