後半まいりましょう。後半、シュッパァ〜ツ!



 Mi19. Dez


 最後のライブ会場はフランクフルトの『Cooky's』。
これだけ連続でライブをやってきただけあって、機材搬入もさすがに慣れたものだ。
リハーサルも滞りなく終わった。
開場すると、顔見知りのお客さんが続々集まって来て、実にアットホームな雰囲気である。

 ライブがスタートした。
ウィーンに行っている間にサニーさんが一足先に帰ったので、ユーリカは3人でのライブだ。
アコースティックと打込み、緩急織り交ぜたステージで観客を魅了する。
この日は僕達も気分的に余裕があり、彼らのライブをじっくり楽しむことが出来た。

 鳴り止まぬ拍手の中、QYPTHONEのセッティング開始だ。
今日は午前中に電源変換プラグを、しかも念のため2個も買ってあるし、ヘッドフォンも購入したので音のチェックは万全である。
二度とトラブルは御免だ。
しかし、ふとタケシの方を見ると色黒の顔をいっそう黒くしているではないか。
ガングロですか(今どき)?いや、蒼ざめているのだ。
「サンプラーが壊れた!」
「!」
 この知らせを聞いてスタッフ一同、ユーリカまでもが対処に走り回る。
僕も美白の顔(今どき)を紅潮させながら、ドラムセットをひっくり返し、ケーブルを抜くの抜かないので大慌てだ。
サンプラー不要のトラックを即席で作成していたため予定より時間が押してしまい、今か今かと待ちわびる観客からは歓声があがる。
分かった分かった。さあ始めようか!

 いずみちゃんが手を上げて煽る。
サンプラーが壊れようと壊れまいと、タケシの壊れたステージングは健在だ。
そこへ眉一つ動かさない僕が一心不乱にMPCを叩く。
踊りまくるオーディエンス。
そう、どんなトラブルもQYPTHONEには通用しないのだ!
連続イベントのラストを飾るにふさわしい底力を発揮したパフォーマンスに、shibuyahot、ユーリカ、一同総出の盛り上がりである。
 ライブ後は全員で「プロスト!」だ。
「日本でも一緒にやりたいねー」とミユキちゃん。
そういえばユーリカと帯バンするのは今回のツアーが初めてだった。
とにかくみんなの力で全てのイベントを成功に導くことが出来た。

 成功を祝し、蕎麦を作って打ち上げをする。
バカ話をしながら夜が更けるまで飲み続けたのであった。


Cooky'sにて。泉、ミユキ、カーステン

ロミナ&マリコ

ホモ&ホモ

ユーリカ!のステージ

DJヨギ

QYPTHONEのステージ

そば製作中のタケシと和久君

ライブのためにロンドンから
わざわざやって来たジョンを囲んで

 Do20. Dez


 連続ライブの疲労から昼過ぎまで眠る。
ユーリカ達は今日帰る堀口君を送りに空港へ向かったようだ。
グッチョンは、ミユキちゃんがこちらで購入した馬鹿デカいキーボードを日本まで持って帰ってあげるのだという。
最後の最後まで疲れ知らずの男だ。
その元気は彼の主食がチョコレートであることに起因するものなのであろうか。
ツアー中も「最高にうまいッスよー!」と片時もチョコを離さず、食生活のホームシックとは無縁だったグッチョン氏。

 それにひきかえ今日の中塚氏はグロッキーだ。
日本であれだけのハードスケジュールをこなすワーカホリック男も、米を食わないとどうも調子が出ないらしい。
ふだん野獣のような彼が今日は一日中布団にくるまって、かよわい仔羊のようある。
夕食に行こうと誘っても「ボク行かない」と布団の中から出て来ない。
まったく困った仔羊ちゃんだ。
 仕方がないので彼を残してギリシア料理屋へ行く。
いずみちゃんはギリシアのお酒『ウゾ』をクイクイやりながら、料理に舌鼓を打っていた。
「胃袋に国境は無い」と豪語する彼女にこそ、ビーストの称号はふさわしいのかも知れない。


 Fr21. Dez


 カーステンは非常にマメな男だ。
朝はいつも僕らの朝食まで用意してくれるし、ちょっと目を離すと風呂の掃除、部屋の掃除、食器の後片付けまで完璧にこなす。
 世話になってばかりでは悪いので、今日は僕らが夕食を作ってあげることにした。
「Great!」と喜ぶが、さすがに味にうるさい彼、早速保険として中華料理をテイクアウトで買って来る念の入れようだ。
冷蔵庫を漁ると成田で買った明太子を発見した。
匂いを嗅いだり、ちょっとだけ味見してみて古いかどうかを調査する。
結局分からなかったが「まあ、漬けてあるものは一生もんだから…」というわけで、明太子スパゲティーを作ることにした。
みんな不安そうに食卓で待つが、これがなかなかの出来上がり。
「Very good!」とカーステンも満足げだ。
しかし一人辛いものが苦手なオレリアンは保険の中華ばかりを食べていた。


 Sa22. Dez


 ヨギがパーソナリティーを務めるFMラジオ番組に出演。
寿司が用意されていたが、放送中なのでとりあえず寿司を観賞。
ユーリカはここで生演奏を行なった。
演奏後、番組を聴いていた人から「感動した」との電話がかかって来る。
QYPのインタビューではタケシが選曲を担当。
すると今度は「今のは何て曲だ」と問い合わせの電話がかかる。
「こんなこと今までなかったよー」とヨギは嬉しそうだ。
インタビューの受け答えはいずみちゃんが担当、ということは必然的に僕が寿司の担当であろう。
ヨギがニコニコしながら「ケンタロウ、どうだった?」とインタビューの感想を求めているのに、
「おいしかった」とは何ごとであろうか。

 『Bergman』というショップでユーリカのミニライブ。
ギターと歌だけのシンプルな編成でしっとりと聞かせる。
リラックスしたムードの中ライブが終わると、和久君は「やっと終わったって感じだよ」と一言。
お疲れさま。あとはクリスマスを楽しみましょう。
 クリスマスプレゼントを買い、夕食に行く頃には雪が降りだしていた。
クラブで少し飲んでからスヴェンの部屋で行われるホームパーティーに行く。
ホームパーティーとはいっても、広い部屋を全部開放してガンガンにスピーカーを鳴らしているさまは、ちょっとしたクラブのようである。

 帰り道、雪はすっかり積もっていた。
完全に酔っぱらった僕らは雪合戦をしながら帰る。
いずみちゃんは何を思ったのか手にした雪を食べていた。


ディスクジョッキーのヨギ

QYPインタビュー

素晴らしきかな友情

番組終了後

レストランにて

市電の停留所
雪が降ってます

スヴェンの部屋のパーティーにて

雪を食ういずみ

 So23. Dez


 ヨギは日本語を話すことができる。
しかし8才まで日本に住んでいたことが災いしてか、彼の日本語は時折やけにキュートだ。
レストランで自分の注文した料理を見てヨギはこう言うのである。
「あーおいしそーこれ。食ーべよっと。」
いい大人が「食ーべよっと」である。
寝起きで無精髭の男が使う言葉とは到底思えないが、なんとも可愛らしいではないか。
食べ終わったヨギはおもむろに立ち上がると、
「僕、これからどこかへ行かなくちゃならないから…」
と「どこか」へ行ってしまった。
この場合「どこだよ」が我々日本人の正しい反応なのかもしれないが、僕らのコミュニケーションとしてはこれで万事OKなのだ。

 夕食用にタイ料理をテイクアウトする。
日本語の習得に熱心なカーステンは人数を数えながら、
「イッコ、ニコ、サンコ、シッコ…」
とやっている。
真顔の「しっこ」には思わず吹き出しそうになるが(「しっこかよ」)、カワイイのでこれも万事OKだ。

 しかしいただけないのは、日本語堪能なオレリアンが質問を聞き返す時の「ア?」である。
質問が聞き取れなくて顔はいかにもキョトンとしてはいるが、発している言葉は紛うことなきビーバップハイスクール調の「ア?」だ。
「ア?」と言われた相手は当然「ンだとこのタコ」である。
喧嘩になりかねないので、彼に正しい日本語をマスターさせるために「ア?」一回につきシッペの刑を処することにした。
 夕食時、タイ料理をもんどりうって食べているオレリアンに訊ねた。
「オレリアン、辛いもの苦手なんだっけ?」
「ア?」
シッペだ。
面白いので、意地悪な僕らはその後意味もなく何度も彼に質問し続けた。
彼はカラさとシッペによって全身赤く染まっていったのである。