2004KH

 8月19日(木曜日)

 二泊三日京都広島修学旅行に行って来ました。

 僕たちのグループは、moona(広末さん)メガネ(玉木君)エロケン(僕)断食和尚(中塚君)、それとあと酔っぱらい(大河原さん)の5人でした。
僕たちは新幹線の中で、駅弁を食べたり、ジュースを飲んだり、お菓子を食べたり、笑ったりトイレに行ったりしてエンジョイしました。
断食和尚はラマダンの佳境に差し掛かっていましたが、やっぱりどうしても京都の食べ物は食べたいらしく「今日は食っちゃおうかな…」と言っていたので、僕たちは「食えば」と言いました。
逆に大河原さんには「呑むなよ」と釘を刺しておいたので、大河原さんは「酒呑ませろ」と言いながらも頑張って我慢している姿が、逆におもしろかったです。
おもしろ過ぎて笑ったりジュースを飲んだりトイレに行ったりしてエンジョイしている間に、新幹線は京都に着きました。



 おこしやす!キップソーン学園高校御一行様、ご到着どすえ!
盆地特有の暑さとオーガナイザー・岸本君達の出迎えを受け、さっそく盛り上がる御一行様。
QYPツアー初参加のメガネ(玉木君)は「すでに楽しいっス〜!」と、太陽光線を眼鏡のレンズに集めつつ喜んでおり、広末さんも普段は見せない地元関西のノリ全開で、理不尽なほどバシバシみんなにツッコミを入れている。
太陽が照りつけるとテンションが増すという爬虫類的体質を持つタケシは、常に日なたを選んで立ち、ニヤニヤしている(黒光りしている)。
確かに今は快晴だが、今後の台風の影響はどうなのか岸本君に聞くと、「BM君をホテルに幽閉してますから大丈夫!」と明快な回答が返ってきた。今夜のイベント「Hipness」に一緒に参加するBM君はスーパー雨男なのである。



 京の町を散歩するどすえ!
賀茂川のほとりをそぞろ歩き、下鴨神社の境内の林の中を進んで行くと、朱塗りがまばゆい大鳥居や社殿が現れた。手水でお浄めをし、人影もまばらな境内の砂利をザクザク踏んでいるだけで、なんかこう、自分達が善い人間に浄化されていくような錯覚をおぼえる。
「ええどすなあ」
「ほんまやなあ」
しばしの間、心洗われる風情を堪能したが、BM君も一緒だったせいか次第に空模様があやしくなってきてしまった。不信心な僕らは賽銭を入れることも忘れて、「あんみつ食いに行こーぜ!」と、修学旅行の中坊のごとくさっさと神社をあとにしたのである。
「賽銭おいていきなはれ…」という霊界からの御神託に耳を傾けることもなく…



 日没後、リハーサルのためホテルから車で「メトロ」へ移動する。
空にはどんよりと雲が覆い、ポツリ、ポツリ、と雨が降り出してきた。
台風の影響によるナマ暖かく湿った風が、ことさらに賀茂川沿いの柳をざわめかせる。
 1000年もの間、日本の中心であり続けた京の都だが、栄華を誇る古都の歴史の裏側に、身の毛もよだつダークストーリーがある事はあまり知られていないだろう。
菅原道真、平将門、坂本龍馬…、覇権をめぐる争いの中で非業の死を遂げた者どもの怨念が浮遊霊となって、京都の町中に渦巻いているらしいのだ。
第二次大戦中の連合国軍も「タタリが怖い」という理由から、京都爆撃を中止にしたと聞いたことがある。

「うらめしや…」

タケシがその異様な声に気づいたのは、楽器のセッティングをしている最中だった。
彼の後方、ステージの奧から聞こえた男の嘆き声。
低く呻くような悲痛な訴えは、たちまち彼を硬直させる。
そして彼は更なる別の戦慄に襲われる。その憂いに満ちた男の声に聞き覚えがあったからである。
恐る恐る後方を見る。

「ひえ〜〜〜!!」

蒼白い顔をしたざんばら髪の野武士が、ゆらりと立っている!



 蒼白い顔をしたざんばら髪の野武士、そう、オレ(エロケン)である。
今日のライブで活躍するはずの楽器「MPC4000」のディスプレイがイカれ、
「映らねえや…」
と、野武士は茫然と立ちつくしているのである。
蒼白い顔に汗を滲ませながら、見えないディスプレイの対処に色々試みるが、過去にもロシアなどで二度同じ事態を味わった経験上、このままではデータのロードも出来ないはずだ。
いつも肝心なところで思うさま我々を嘆かせてくれる楽器である…
 このタタリ的な状況に、Hipnessスタッフ総出で楽器屋や修理屋に連絡したり、パソコンを用意してくれたり、ディスプレイはダメだがどうにか演奏できる形になった。
さすが、地縛の怨霊にひるむことなく「京都タワー」を地面にブッ刺し、町中に地下鉄をブチ抜き、地下鉄駅の構内にクラブ「メトロ」を造ってしまう京都人。
持つべきものは京都の友人だよ、ありがとう!

 夕食中

 雨も上がり、無事に始まった「Hipness」。
ARGYLE、moona、BM君と、祭の度合いを高めていけば、いよいよ我々のライブどすえ!
BM君ミックスの『Love Groovy Saucer』から間髪入れずにギター・リフ。
同じ曲『Love Groovy Saucer』のアコースティックバージョンは、オーディエンスの刻む手拍子が唯一のリズムパートである。
京都人の力強い「柏手」を前にタタリは去り、MPCのディスプレイなんか見えなくたって神業的なスイッチングが可能なのだ!
酔いどれ舞妓・泉奴による狂乱の舞いと、断食和尚として解脱を遂げたタケシの研ぎ澄まされたプレイもアツい。
スポットライトを眼鏡のレンズに集めつつ、激しくベースの弦をはじく玉木君。
オーディエンスはもちろん、怨霊さえも踊らせるグルーヴが絶え間なく響く。
最後の曲が終わっても鳴りやまぬ「柏手」に応え、我々は再び祭囃子をおっぱじめるのである。



 「いやあ、一時はどうなるかと思いました」岸本君達スタッフには、機材の故障でたいへん心配をかけてしまったようだが、ライブもイベントも素晴らしい盛り上がりになって良かった!
乾杯をしてDJブースを見ると、日焼けし過ぎのタケシはブラックライトに照らされて白目と歯だけが踊っているように見えるので、ある種タタリ的な感じだ。
 さて、祭にはお浄めの酒が欠かせないが、「明日もライブあるからね」と、酔いどれ舞妓に対する酔いどれ防止作戦を展開しておかねばならない。
しかし既に浄めまくっている彼女にそんな遠回しな忠告が通じるはずもなく、ライブが一つ終わった解放感からお祭り気分で次々呑んでいるようだ。
そんな時、京都人は更にもっと遠回しな表現でたしなめるというから見事である。

「ぶぶ漬け食うていきなはれ…」