4月3日(土曜日)
『秀ちゃん』でラーメンを食う。
福岡には他にも『山ちゃん』『しんちゃん』などの名店があるらしい。
じっくり煮込んだゲンコツと醤油ダレのとろみあるスープに、タケちゃんも舌鼓を打っていた。
レコード屋などを廻った後、一人タケシはFMの収録のため広島へ行くことになっていたのだが、「せっかく近くまで来てるからQYPTHONE全員で行っちゃおう!」といきなり決定。
広島FMの斡旋者である萩原さんも、真加井さんも、突然の予定変更に驚き、スケジュール調整にてんやわんやである。タケシは思いついたら頑としてその道を行くという「やな星一徹」的なところがあるが、僕や泉ちゃんは星飛雄馬的にもう慣れっこである。父ちゃん、のぞむところだ!
急いで準備をし、チケットを買って一気に新幹線に乗り込んだ。
広島駅に到着。
時間が無く、タクシーに飛び乗って広島FM局へ急ぐ。
『JPスタンダード』のディスクジョッキー・清野さんは、無類のドイツ好き、『ゴルゴ13』好きということで、BMWとゴルゴをこよなく愛するタケシとすっかりうち解ける。
収録を終えたところで先に山口へ向かった真加井君から「収録終わったらすぐこちらに来て下さいね!」と、催促の連絡が入るが、どうしても『千番』のもやしチャーシューが食べたかったので、「ちょうど今出たところです!」とソバ屋的返答をして『千番』へ行ってしまった。(真加井君、ゴメン…)
もやしとチャーシューを混ぜただけの文字通り『もやしチャーシュー』であるが、これがまた絶品で、トンコツ醤油のラーメンに合いまくる。「QYPTHONEを広島に呼ぶ会」の面々が合流して、ラーメンを啜る僕に「あー、ホンモノだあー!」と歓喜の声をあげる。何でも、広島では僕が人気者らしいのだ。たのきんを見て「ヨッちゃーん!」、ドリフを見て「なかもとー!」、桃太郎を見て「キジ、がんばー!」と思わず叫んでしまう心理的背景がそこにはある。(いずれも引用古くてすみません)
大急ぎで新幹線に乗り、新山口へ引き返す。
「新」という駅名ではあるが、駅前に真新しいものは無く、6時を過ぎると土産物屋も閉まってしまう。人影もまばらで若者も見あたらないので、ちょっと心配になってきた。出迎えてくれたスタッフの車で連れて来られたのは、湯田温泉という温泉街の『南国ビル』という、スナックばかりが入っているビルで、ますます心配になってくる。駅周辺よりは人も多いのだが、浴衣姿の年輩の人がほとんどである。
「これは一体…」
と、状況が良く飲み込めないままリハーサルを終えて、郷土料理を食べに行く。
アナゴの白焼き、カニの吸い物、サザエ、といった自慢の特産品の旨さについついお酒も進んでしまい、ほろ酔いのまま本日の宿としてチェックインしたのは温泉旅館である。「あ、今日はライブというより温泉なんだ!」と、僕らはどんどん間違った方向へ状況を理解していく。タケシなどは、スタッフが迎えに来るまでの一時間を利用して、他の客に混じって温泉を楽しんでいたようである。もはや完全に湯治の気分である。
1時間後、旅館に迎えに来たスタッフの車で会場のある『南国ビル』へ向かう。
ライブ会場ARROWSのある階へ上ると、随分たくさんの若者でごった返している。
会場を覗くと、真加井君のDJの真っ最中で、さっきまでの温泉気分が嘘のように、フロアは踊り狂う若者に埋め尽くされ、興奮のるつぼと化しているではないか!
「これは一体…」
と、状況が良く飲み込めないまま会場内部へと入っていく。『REGISTA!』は、音楽を愛する中国地方の若者達に人気のイベントらしく、この日を目当てに随分遠くからも人が詰め掛けるのだそうだ。
大歓声に迎えられステージに上がる。
何気なくスタートして、演奏は徐々にボルテージを高めていく。
泉ちゃんが登場すると、フロアの興奮は絶頂に達する。
その熱さは、温泉における入浴適正温度をはるかに超え、若さに熱せられた音楽革命のエネルギーと化しているのだ!
冴え渡るピアノ、ギター、シークエンサーに合わせた、泉&オーディエンスの大合唱。
ラリアットの応酬のようなコールアンドレスポンスが繰り広げられる。
やがてその熱も醒めやらぬまま、タケシのDJへとなだれ込むのである。
DJタケシは「タケシ〜!!」と声援され、「呼び捨てで声援されてる…」と困りながらも喜んでいた。「しむら〜!」における、愛情のこもった呼び捨てだからである。泉ちゃんはサインをしまくった後、地元ギャル軍団とウンコ座りで何事か話しまくって、ビールを飲みまくっていた。
そして僕はファンの一人に握手を求められた。
「キレてましたね!」
「キレてないですよ。俺をキレさせたら大したモンですよ、まあ俺がキレたら、あいつリングから立って帰れないだろうな…」
音楽維新軍・キップソーンは、革命の炎を胸に秘め、そんなこんなで温泉に突入していくのである。
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