2004FY

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 4月4日(日曜日)

 人気のソバ屋に行く。
しかし真加井君は蕎麦アレルギーらしく、カツ丼を頼みつつも付け合わせの吸い物の内容物が心配でならないようであった。萩原さんは蟹アレルギーで、昨日のカニ汁を遠慮していた。アレルギーとは、他の人には分からない差異を読みとって身体が反応する仕組みで、本人にとってはやっかいなものだが、ある種の超能力のようなものである。僕は「やらしいことを考えると鼻がムズムズする」という超能力の持ち主なので、クシャミが出ない時にこの能力を利用している。とっても便利。

 飛行機の出発までまだ時間がある。
「天気もいいですから、ドライブしますか!」
と山口のオーガナイザー・北君が提案した。もちろん僕らも賛成し、車は山へ向かってどんどん上っていった。
4月初旬、南国山口はもうすでに初夏の陽気で、山は新緑がまぶしく、葉も密な枝振りがトンネルのように川を覆っている。車はやがて急勾配へと差し掛かり、いよいよ上方に開けた空が見えてくる。頂上だ。

 そこは地獄であった。

「なんじゃこりゃあ!」全員をGパン刑事にしてしまうほど、頂から眺める景色は異様であった。
『秋吉台』、カルスト地形と呼ばれる、奇怪な岩が無数に露出した波のようにうねる丘、さっきまであった背の高い木立は一本もなく、所々禿げた草地と砂地が覆う荒涼とした風景。とても自然が作ったとは思えない人工的な造形、無機的な風化した岩石が彫刻のように屹立する怖ろしげな空間は、まるで人間が持つ地獄のイメージを具現化したような光景である。泉ちゃんも叫ぶ。
「天国みたーい!」
な、なんじゃそりゃあ!
せっかくの地獄気分が台無しである。そしてもしここが天国だったらイヤである。
しかしまあ、これを天国と感じるのも本人の勝手であろう。
「ペンギンがいるー!」
ウソつけー!秋吉台にペンギンはいない。遠くの観光客と見間違えたのか、それともすでに彼女は天国への妄想に没入し始めているのか、今のブッ飛んでる笑顔からは判別しがたいが、北君は「…こんなに感動してもらえて、ここに連れてきた甲斐がありました…」と腹をよじらせながら言っていた。

 宇部空港に着き、しばらくお土産屋を物色してからお別れである。
「今度は是非冬にも来てください。フグが旨いですから!」
そう言われたとたん、生唾がジュンジュワーと溢れてきてしまうのは12代目くいしん坊のサガである。我々は必ずやここにフグを食いに、いや、今回以上に盛り上がるライブのために戻って来るであろう。

 福岡・山口、そして広島ならではの味覚を堪能し、観光に温泉、予想を超えたオーディエンスの熱い反応、さらに後日真加井君はグルーヴィーソースに現れ、ツアー中には時間が無くて買えなかった明太子をプレゼントしてくれたのである。今回のツアーを思い返してしてみるとまさに「天国みたい」である。あまりの手篤いもてなしに、私も天国への妄想に没入してしまった。

ペンギンがいるー!



この日写真を撮り忘れちゃいました。
泉の思う天国図。



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