2004Korea

 10月30日(土)


 セックス・ドラッグ・ロックンロールという言葉がある。

ご両親が聞いたらさぞかし腰を抜かし、目を覆いたくなるような生活態度であり、そこに反省の色は、まあ、無い。
「オイラ」「あたい」を一人称とする彼らには、決められたレールの上なんか歩きたくないぜ!という信念があり、寝坊・飲み過ぎ・学業の伸び悩みのたぐいを「ほら、オイラ、ロックだから!」と片づける傾向にある。
「ロックならしょうがないか…」と、なぜか巷にも見えざる『ロック権』を認める人々は結構多い。
 ロックではないが、玉木君は今日寝坊である。
かといって「ほら、オイラ、ジャズだから!」などと言い訳をするわけではなく、さすがに面目なさそうに「すみません…」とロビーに現れた。
「オイラ、ドラムンベースだから」「オイラ、リズム&ブルースだから」「オイラ、サントラ&イージーリスニングだから」どれもやはり寝坊の言い訳にはならないのではあるまいか。

 ホテルに迎えに来てくれたニーナ達と一緒に車で出発!
しばらく車が進むと玉木君が「あ…、Tシャツ忘れました。」とメガネの奥の目をピンチで歪めながら言う。
ライブで着る『Montuno no.5 Tシャツ』を忘れたのと言うのだ。
まったく!何から何までこの色白メガネ…あれ?…やべえ!!、オイラもだ!
事情を告げると、運転手はあきれ顔になりながらもホテルへ引き返す。
玉木君も僕もずいぶんセックス・ドラッグ・ロックンロールな生活態度というものである。
これで玉木君は本日すでに『ロック権』のカードを2枚使ったことになり、あと1枚でもれなく『ヘビメタ権』がもらえるよ!デ〜ストロイ!



 ソウルの街はデカイ。
東京と遜色ないほどの大都市である。
遜色ないどころか、渋滞の様子、信号機や標識のデザイン、街路樹や建物の外観、どれも全く日本の景色そのものであり、東京にいるのかと錯覚してしまう。唯一違うのは、その標識をよく見るとハングルであるという点だけだ。ただしこのハングルがクセ者で、理解することも推測することも出来ず、むしろヨーロッパ・ロシア以上に「いま何という町にいるのか」「この店は何屋か」が分からない。
しかし安心したまえ。「Seven Eleven」「Family Mart」「Mini Stop」といった馴染みのコンビニが、日本と寸分違わぬ形で存在していますから。
渋滞をどうにか通り抜け、韓国大手CDショップ『Hottracks』に到着。
韓国のトップDJ:soulscape君と合流し、写真撮影をする。

 Hottracksのあるビルの入り口で野外インストアイベントが行われている。
韓国のヒップホップミュージシャン達に引き続き、タケシのDJと泉ちゃんによるショーケースが始まった。
興味津々で集まってくるソウル市民達。『Melody』が始まるとグッと観衆の数も増え、その泣きのフレーズにしびれてリズムを取っている。
ソウル市民達の大喝采を浴びながらステージを後にし、DJ soulscapeとともにインタビューを受ける。彼も「すごく良かった、ていうかQYPTHONEの事は前からずっとチェックしてるよ!」と光栄な事を言ってくれた。インタビューでは彼と意気投合し「コラボレーションで何かやりましょうよ!」という話まで持ち上がった。他にも音楽についての持論など結構まじめな話題も出たのだが、基本的にQYP側はタケシが話しており、僕は主に何をしたかというとカフェラテを飲もうとしてボタボタボタ〜と服にこぼしてしまい、通訳のQさんやsoulscapeに「あ〜あ〜あ〜!」と慌ててナプキンを用意してもらうという、なんか赤ちゃんになった気分である。まあセックス・ドラッグ・ロックンロールな生活態度というわけだ。デ〜ストロイ(バブー)!



 グランドヒルトンホテルに到着。ここの地下に『Club Babalu』がある。
DJ soulscape他韓国のアーティストを交えて、本日"QYPTHONE ハロウィンパーティー"を行う場所だ。
リハーサルを終えて楽屋に戻り、なぜか広島から萩原さん&カギちゃんが現れ、役者が揃ったところでMTVのインタビュー。今回は本当にインタビューや撮影が多く、着替えの回数がハンパ無く多い。
あと多いのは「渋谷系について」の質問だ。韓国では渋谷系が最近盛り上がっているらしく、日本の僕らの感覚としては戸惑ってしまうところだが、日本で2年前の『冬ソナ』が盛り上がっていることを考えると、まあ、似たような感じだ。国外の文化が根付くには時間がかかるのである。
QYPTHONEメンバー一人一人別々にインタビューされ、結構難しい質問が多いため、泉ちゃんは自分の番になって不安に思ったのか「あまり難しい質問はちょっと…」と言うと「わかってます」とQさん。
さすが洞察鋭いQさんだ。3日間で泉ちゃんの扱い方を完璧にマスターしている。

 今回は2ステージあり、その1回目の準備に取りかかる。
黒タートルに着替えようとするが、玉木君が申し訳なさそうに「あ…、黒タートル忘れました」と、ついに『ロック権』3枚目を発動。泉ちゃんのを借りて事なきを得るが、これで彼は『ヘビメタ権』がもれなくもらえたよ!デ〜ストロイ(おめでとう)!

 早くも期待感みなぎってステージ前までギュウギュウに押し寄せて来るオーディエンス。
『Boogaloo Chair』のピアノが始まると「キャ〜〜!!」と黄色い歓声を浴びるタケシ。
歌が始まれば今度は泉ちゃんに「キャ〜〜!!」みんなのアイドルバンドQYPTHONEのライブスタートだ!
既にオーディエンスの多くが韓国盤CDを聴いて憶えてくれているようで、どの曲をやっても彼らの熱い歌声が重なってくる。会場を揺るがすほどのこの怒濤の響きはどこかで聞いたことがあるぞ!?
そうそう!ワールドカップでの韓国応援団だ!
じゃあこれやっちゃおう!というわけでタケシが「テーハミング!」と叫べばオーディエンスがパパンパパンパン!と拍手で応えるではないか。「テーハミング(大韓民国)!パパンパパンパン!」は韓国応援団のおきまりの応援だ。その応援のリズムに合わせて『Melody』をスタートすれば、もうその盛り上がり方といったらワールドカップ以来の日韓共催の大パーティーである。
ひたすら体を揺さぶり歌い叫ぶソウルっ子達。
情熱溢れる国民性に呼応し、我々も熱のこもった演奏を繰り広げる。
「もう1回やるからね〜!」と約束して終了!ヒートアップしたフロアを後にした。



 この後すかさずタケシはDJ、泉ちゃんはサイン攻め、ステージ上でのインタビュー、楽屋へ戻れば出演者・スタッフらが大勢挨拶に来ては「カンペ〜!」を繰り返すという極限のパーティー状態で、メインアクトである我々のもてはやされようは、こっちの方が「俺たち、韓国でこんなに人気なの?」と驚くほどであった。タケシはステージに上がる度に「カワイイ〜!!」と言われ、サポートメンバーである玉木君にも「アクシュシテクダサイ!」と集まって来るし、泉ちゃんはお客さん達に引き留められてなかなか楽屋まで帰って来れない。
僕も調子に乗ってステージ上から「サランヘヨ!」と叫んだら「キャ〜〜!!」となった。結果オーライだが「サランヘヨ!=愛してるぜ!」というニュアンスが強いらしく、我ながらずいぶんセックス・ドラッグ・ロックンロールな事を言ってしまったようだ。
とにかくこの後の2回目のステージが更に熱狂を呼んだことはもはや言うまでもあるまい。

 イベント終了後、遅くまでやっている和風の居酒屋的なところでスタッフと共に打ち上げをする。
全て大成功という幸運な結果を得られたのは、ひとえに今ここにいるHappy Robot Records始め韓国スタッフ達の努力によるところが大きい。「カムサハムニダ!」と労をねぎらいながら、シメの乾杯をする。
もう午前5時、出発まであと2時間しかない。



  ホテルで仮眠を取り、7時30分ロビーに集合。
玉木君はさすがに今度ばかりは遅刻していないが、代わりにタケシが全然降りてこない。
「寝過ごした。本当に申し訳ない…」珍しくタケシが謙虚に謝って降りてくると、我々3人は「まあいいってことよ!」と非常に痛快な気分で声をかけてあげた。
タケシのせいで遅れそうなので(ああ痛快)車のスピードをフルに上げて空港に到着。
ニーナと運転手の彼(結局最後まで解らずじまいでした…)に「またやりましょう!」と約束してチェックインしていく。こんなドタバタ喜劇のような我々をまとめ上げてくれた彼らに感謝したが、出国手続きが長蛇の列で離陸に間に合いそうになく、更にドタバタ走り回ることになった。

「ほら、オイラ、QYPTHONEだから!」

なんか言い訳として納得できてしまうのはなぜだろう。