2003Austria

 Sa 6. Sep

 最後のライブを行うシガーティングという町に向かう途中、ニコラスドルフにあるクリストフの生家に立ち寄る。ご両親に迎えられ、庭で朝食を摂ることにした。
 オーストリアにはハエが少ない代わりにハチが多い。しかしその分、ハチの振る舞いは日本のハエの行動パターンと同じで、あさましく食事にたかってきて非常にウザい。バブシー達は慣れているのか、パンにハチをとまらせたまま平気で食べている。オーストリア人にとってはハチは益虫扱いで、「友達だから無闇に追い払ったりしない」のだ。「でも刺すよ」とか言うので日本人三人はドリフ気味に牛乳をブッと噴き出し、朝食は屋内に変更である。
 『アイネクライネナハトムジーク』を聴きながらの優雅な朝食、クリストフが演奏してくれた『ハックブレット』というダルシマーに似た楽器の響きは、中世ヨーロッパ絵画の中に入り込んだような錯覚を覚える。今日はこの後、中世から残る小さなお城でライブを行う予定である。まさにお城で舞踏会なのだ。

 シガーティングという町は空気も爽やかなのどかな所なのだが、お城はイベント用に改造され、ここで度々催されるジャズイベントの時には、泊まりがけで大勢の若者が詰めかけるというとてもホットな場所なのだ。お城には既にエンジニアのクリスとオーガナイザーのマーティンが到着していた。マーティンと2年ぶりの再会を喜び合い、舞踏会の準備に取りかかる。
 お城と同じ敷地内にあるホテルが今夜の宿だ。ホテル1階のレストランで夕食をしてから、各自個室に籠もり、久しぶりのプライベートタイムを味わう。気兼ねなくシャワーを浴びたり、素っ裸のまま体操をしたり、意味もなくニヤニヤしたりして、素の自分と大いに向き合った。

 さて、魔女に魔法をかけられた僕たちは、黒づくめの衣装に変身し、素敵な出会いを求めてお城に入っていく。明後日の朝には魔法が切れて、東京に戻らなければならないのだ。楽しかった舞踏会も今夜が最後である。
お城の中では早くもたくさんの男女が舞踏を楽しんでいる。
シガーティングは国境に近いため、ドイツからやって来た人もいるらしい。
ドイツとオーストリアの紳士淑女達は、はるばる日本からやって来た我々を大喝采で迎えてくれた。
二年前の初夏、キップソーンのヨーロッパ初ライブをおこなったのはこのお城である。
その時の忘れ得ぬ温かい喝采が、「僕たちの音楽はヨーロッパでも通用するかも!」という自信を植え付けてくれたという思い出の場所だ。
「ダンケシェ〜ン!シガーティング」
と叫んでライブスタートである。
『ブガルーチェア』の鬼気迫るビートでうねり、『スクーター』ではすっとぼけた顔で跳ね回り、『ラヴグルーヴィソーサー』の4つ打ちでパワフルに乱れる。
考えてみればキップソーンの曲はどれもひたすら忙しい。
しかしそれを望むオーディエンスもひたすら熱中して踊っている。
歴史あるこのお城は、いったい何百年間このような饗乱のパーティを見守ってきたのだろう。
観衆は「ツーガーブ!」とアンコールの掛け声をあげて我々を再びステージに押し上げ、悦楽の舞踏会はなおも果てしなく盛り上がるのであった。

 ついに最後のギグを終えた。後はCDの売れ行きをニヤニヤ観察しながらサインを書くばかりである。カワイイ女の子に囲まれていたタケシはDJとして更にステージに上がり、一層モテまくろうという魂胆だ。さあ今夜はもう飲むしかない、ということで、クリストフは松の実をベースに5年かけて醸造したお手製の『シナップス』という強烈な酒を振る舞ってくれた。一口含むだけで口の中が火傷しそうに辛いこの酒を、こともあろうにショットである。マーティンやクリス達とライブの成功を祝って乾杯だ。今夜はホテルが近くにあるので安心して前後不覚になれる。そんな気分で僕は相当な量の酒をクイクイ飲んだようで、ここから先は夢かうつつかハッキリしていない。(以下の状況はそんな僕の夢の中の話として聞いていただこう。)

 ライブ会場に戻ると知らない人にタバコを勧められた。しかしそれは明らかにタバコではない。

 『モんじゃ』である。

 焼いてチビチビやる、クラブピープルの大好きな例のヤツだ。
このニオイだけで僕はラリってきたようだ。
僕らのモんばりを讃えてモんじゃをくれたナイスモイとモっちり握手をした。
「どうガありモとう」
しかしタバコとまちモえて勢いよく吸ったので、ゲホゲホと咳き込んでしまうと、
あ〜あ、ガったいない、とモっかりされた。
この後ナイスモイはオーストリアの誇りであるガーツアルトとシュワルツェネッモーの話ばかりするので、負けじと俺たちの誇りであるドラえがんやポケガンや機動戦士モンダムの話を…

 なんかロレツ回っていませんね。何ででしょう?



ガソリンスタンドはセルフサービスです


道中、ずっと寝てました


クリストフん家


ハックブレット


演ってみた


クリストフのご両親にCDをあげました


お城に到着


後ろ左側がオーガナイザーのマーティン


本日のフライヤー


機材チェック中のクリス


ホテル1階のレストランにて


笑顔ですがライブ前はどこか緊張感が漂います


ライブ中


ライブ後は写真でもリラックスしてることが分かりますね


クリスです。この人はホントに何考えてるのか分かりません


モテるためにがんばるぞ〜


オレも〜


バブシー、シナップスをイッキです