2003Austria

 So 7. Sep

 シガーティングの朝は静かだ。
いや、それはもしかしたら昨日のドンチャン騒ぎとのギャップでそう思うのかもしれない。疲れ切った体に朝食が入り、僕らはようやく会話を始められるようになる。ウィーンまでの長い道のりがあるので、ここはもう一踏ん張りしなければならない。飛行機の出発が明日であることが、疲れ果てた我々にとって何よりも救いである。

 ライブ会場へ戻るとタバコと酒のニオイが染みついており、割れたビール瓶が散乱し、小さな可愛らしいお城の中はひどく汚れていた。可哀想な気もするが、その汚れはこのお城がいまだに現役の建物であるという気高さの証でもある。色々なスタイルで何百年もの間使われ続け、今もなお音楽ファン達によって愛されている小さなお城。オーガナイザーのマーティンと次回のライブの約束を交わしたので、このお城と再び出会うのは来年である。後片付けをしてシガーティングに別れを告げた。

 今日は日曜日なので、キリスト教国の習慣としてお店は軒並み休みである。というわけでお土産を買えるのはホテルザッハーとモーツアルトチョコ屋とガソリンスタンドだけである。途中に立ち寄ったガソリンスタンドでチョコをたくさん買うと、クリストフは「ガソリンスタンドでお土産買うの…へえ」と理解に苦しんでいた。こちらとしては、ドイツ語でなんか書いてある商品は全てお土産に値するのだ。そういうクリストフも、日本語で『トップ』と洗剤の広告が大きく書かれたTシャツを着たりしているではないか。バブシーも『チョコボール』と書いてあるTシャツを持っている。泉ちゃんも前面に『ワガママ』袖口に『WAGAMAMA』と書かれたTシャツを今日着てるけど、お前は日本人だろ。

 ウィーンに着いた。我が家に帰って来たかのようにドッと疲れるが、音楽の都に着いたってだけだ。なに音楽の都に安心感を感じてるのだろう、随分偉くなったもんだ。「ラストファイトをやろう」と呼ばれて、僕とクリストフはゲームキューブでスマッシュブラザーズの最後の対戦をする。
 今晩はクリスやエヴァなど、お世話になった人達と一緒に日本料理屋で打ち上げをするのである。バブシーは早速おめかししてやる気満々だ。なぜかタケシもおめかしして口紅を塗っているので、一緒に歩きたくない。地下鉄でステファンズプラッツ駅まで行く。
 まずはホテルザッハーで本家ザッハトルテを購入した。しかし他の店にも『元祖ザッハトルテ』があるという。へえ〜、へえ〜。

 『TEMMAYA』に、エンジニアのクリスとその彼女、エヴァとその彼氏のクリス(またクリスかよ!)も登場し、寿司やそばやしゃぶしゃぶなど、久しぶりの和食を囲んで「カンパーイ!」と打ち上げ開始だ。
 TEMMAYAのウェイトレスは和服を着た上品なおばさまで、僕らは久しぶりに敬語というものを使って注文をした。僕らの口から発されたいつもと違う響きの日本語に、バブシーは感心している。ドイツ語にも敬語らしきものがあり、「本当ですか?」と言う時は「ヴェルクリッヒ?」、「マジ?」の時は「エヒト?」と、話し相手に応じて変化する。クリスはふざけて僕に「今度は『エヒトボ〜ワ?』って言ってみな」と勧めるので、ドイツ語で会話をしているクリストフ達に「エヒトボ〜ワ?」と割り込んだら、みんなまずビックリしてその後大爆笑された。クリスは「ウッヒャ〜!!」と大喜びだ。『エヒトボ〜ワ』は相当きたない言い方であるらしい。

 帰り道、バブシーが「クリス!」と呼ぶと3人のクリスが一斉に振り返った。そういえばバブシーはクリストフのことを「クリス」と呼ぶ時もある。西洋の名前の種類の少なさはもう少しどうにかならないものだろうか。とにかくクリス(クレイジーな方)と彼女はここでお別れだ。しっかりハグをして、再会の誓いをした。
 部屋までの道のりをワイワイ騒ぎながら徒歩で行く。最後のウィーンの夜を徒歩で行くのだ。あと数時間でこの地を起つという焦燥感と、いつまでもこのお祭り気分を味わっていたいという名残惜しさを象徴するかのようで、日記を書いている今でもこの散歩はとても印象に焼き付いている。
 エヴァ達を交えて部屋で更なる飲み会を繰り広げる。写真を撮り、踊り、台所にあった酒を全て持ちだして、夜中過ぎても大騒ぎを続けるのだ。デザイナーのバブシー、アーティストのエヴァ、イラストレーターのクリス(イチローに似てる方)、美大卒の泉ちゃんが揃っているので、みんなで似顔絵を描いたりして子供のように喜んだ。パースの狂った味のある絵しか描けないタケシはもう寝床に入ってしまった。イチロー似のクリスはかなり酔ってしまい、「明日歯医者に行くからもう帰んなくちゃあ…」「歯医者行かなくちゃあ…」と、ずっと明日の歯医者のことばかり話していてどうしようもないので、エヴァに連れられて帰って行った。
 部屋の中は急に静かになった。
明日の朝早く東京に帰る。



朝ごはん


これが可愛らしいお城


その隣の教会


マーティンとお別れです。来年きっと会いましょう


ウィーンに帰ってきました。ギャラを手にして記念写真


何で口紅塗ってるのかは不明


ここがホテルザッハーです


『TEMMMAYA』にて
左端が新たに現れたエヴァの彼氏のクリスです


和風です


何を喋っていたか覚えていませんが楽しそうですね


ウィーンの夜の街を


歩いて帰りました


ちゃんと写ってませんね。みんな動きすぎです


チャーリーズエンジェルのつもり


カンパ〜イ


グビグビ


カメラを向ける度にイッキするので心配になります。
もっと心配なのは右の人