2003Austria

 So 31. Aug

 『FM4』にチューニングされたCDラジカセから『Boogaloo Chair』が流れ、昨日収録したインタビューが放送される。キップソーンのメッセージはオーストリアの音楽ファンに届くであろうか。泉ちゃんはラジカセから聞こえる自分の声に足をばたつかせて喜んでいるので、間違いなく彼女には届いたであろう。

 ライブ初日のウィーンは曇り空。外に出ると肌寒さとライブ前の緊張で顔がこわばってくる。ライブ会場となる『Volksgarten』(フォルクスガーテン)でリハーサルである。
 会うたび冗談を言っては、ひとりでウヘラウヘラ笑っている『ひとりペー・パー子』ことクレイジー・クリスだが、彼は実にタフで信頼のできるエンジニアだ。わがままな我々の注文でもウヘラウヘラ受け入れ、今回はわざわざベースアンプまで用意してくれた。デザイナーのバブシーもクリストフとともにVJデータのチェックに余念がない。そしてリハーサル終了。

 いよいよ本格的にツアーが始まるかと思うと、やはり何となくドキドキしてしまう。ウィーンでのライブは二年前に経験しているのだが、前回の滞在はたった三日間、音楽の都にいることを実感するにはあまりにも短すぎた。
ここはなにしろヨハンシュトラウスを輩出したクラシックのメッカである。
ウィンナワルツとドナウのせせらぎを聴いて育った貴公子・貴婦人達の街である。
 はたして我々の音は彼らの心に響くであろうか…
音楽版電撃ネットワークの我々3人は、今『オーストリアライブツアー』という大胆な試みの渦中で、ハラハラソワソワと落ち着きが無かった。
 自分たちにはワルツの持ち曲も『布団パック即身成仏』の持ちネタも無い。
あるのは音楽に捧げた情熱と、その情熱のもとに産み出された曲たちと、夢に邁進する努力の日々と、それを支えてくれたファンの笑顔と、ひいては世界中の子供達の笑顔と、ラブ&ピースと、ボランティア精神と、あとエコロジーとかだけであり、つまり何ていうのかな、まあ、つまり「人間が好き」?、っつーの?つまり…(適当な箇所にツッコミを入れよ)

 人間も好きだがカレーも好きなキップソーンは、インド料理屋でカレー食ってライブ会場に戻った。
 会場の中は外の冷気とは対照的な暑さである。すでに僕らの大好きな人間達が集合しており、すっかり盛り上がっているようだ。中にはラリった者、酔っぱらい、どっちか分からないがフラフラしたヤツなど、思い思いのアツイ盛り上がり方をしている。
 黒タートルですっぽり身を覆ったタケシと僕がステージに上がり、シークエンサーをスタートすると、興味津々と人々がフロアに集まってきた。
ベースアンプの超低音と、レゾナンスフィルターの超高音が会場全体を震動させる。
フロアに溢れた男女はこの震動のせいでスイッチが入ったのか、一心不乱に踊り出した。
泉ちゃんがステージに上がれば、オーディエンスは「ウオー!」と雄叫びをあげる。
日本から来た我々音楽版トーキョーショックボーイズを快く迎えてくれているようだ。
南部虎弾じゃなくて大河原泉(似たようなものだが)の振り付けを真似して踊る。
一度スタートすると数曲ぶっ続けになるのが僕らのライブのスタイルのため、彼らはこれから40分、踊り続けることになるのだ。
それでも貴公子・貴婦人達はいっそう髪を振り乱し、手にしたビールを飲み干し、汗まみれになって踊りまくる。
そしてライブ終了と同時に間髪入れずアンコール。
まだ踊り足りないのか諸君!
割れんばかりの拍手に押された僕らは、再び会場と人間を震動させるためにステージに戻ったのである。


 人間が好きでカレーが好きでサイン攻めが好きな泉ちゃんは、CDを売ってくれているクリストフの隣でサインを楽しんでいる。相当な売れ行きのため、その一つ一つにサインをするのは骨の折れる作業であるが、彼女はむしろ幸福の絶頂にいるようだ。
また、会場の中庭で休んでいる僕とタケシの所にも、ひっきりなしにお客さん達が「最高だった!」と伝えに来てくれた。完全にラリってフラフラしているヤンという男などは、日本語が分からないくせに僕らの会話に割り込み、「お前の意見に賛成だ!」「それはまさにオレの言葉だ!」「オレの革ジャンどこだろう」とか言ってゲラゲラ笑いながらずーっとつきまとっていた。

 泉ちゃんが踊ってすっ転んで笑って飲み疲れるのを待ってから帰る。この女が酔っぱらうと面倒だ。彼女は部屋に戻ってからも「腹へった」と夜食をガチャガチャ用意し始め、大声で喋ってなかなか寝ようとしない。
ラリったヤツにも困ったものだが、こいつはラリってないけど困った女だ。



昨日収録されたFMを聴いているところ


荷物は結構重いです


『Volksgarten』


ひとやすみ


会場の中の様子


リハーサル中


会場の外の様子


外は寒くなってきました


カレー


バブシーのVJ


会場の中は暑いです


熱気で曇ってしまいました


エンジニア・クリスのアイコンタクトで…


シーケンススタート!


タケシ


南部虎弾


キップソーンライブ、ウィーンに見参


「東京ショックボーイズえがった〜」


サイン魔、ウィーンに見参


虎弾を囲んで


ウィーンの虎弾ファン


ライブ後、部屋に戻って


すごい形相で一人夜食を食ういずみ
「なに撮ってンだよ」と怒られた