2003Austria

 Mo 1. Sep

「今日もライブよ〜!」
とバブシー母さんが呼ぶので、
「ワーイ!ワーイ!ライブだーいすき!」
と、ねぼすけ三人組は大喜びでベッドから飛び起きたのでありました…

 といった夢の描写はさておき、今日、僕らは寝坊である。
 昨夜の帰宅時間を考えるとこれも致し方あるまい。いくら寝ても寝足りないと思えるほど、体中に昨夜の疲労が覆い被さっているのだ。そんな中、孤高のジョギングバカだけは早朝ジョギングに出かけたらしいが、孤高の昼寝バカでもある彼は現在二度寝の真っ最中で、誰よりも深いノンレム睡眠に突入していている。
 今朝はバブシーもクリストフも、「ギリギリまでモタモタする」キップソーン精神にのっとり、だいぶゆっくりのお目覚めだったようだ。キップ精神にのっとりまくっている僕らは当然彼らより遅く、昼近くなって目を覚ましても、まだ布団をかぶったままモタモタしている。しかし今夜のライブのリハーサル時間が迫ってきているため、もう起きないとヤバイ。
 今何時〜〜?と呻きながら時計を見た。
お察しの通りこの後は、
「遅刻だ遅刻だ〜〜!!」
と叫んでパンをくわえたまま学ランを着ながらダッシュのシーンだ。
番長、急ぐでやんす!リハーサルが始まっちゃうでやんすよ!

 遅刻だ。
 昭和の学園マンガなら、ズッコケ番長がバケツ持って廊下に立たされてトホホで読者大爆笑、となるところだが、ウィーンには遅刻に関して寛容な人が多くて助かった。エンジニアのクリスも悠々と(ウヘラウヘラと)到着し、のんびりムードでサウンドチェック開始だ。
 しかし悠長なことは言っていられない。ライブ会場『B72』のオーナーから、ライブを2セット演ってほしい、と突然の申し出があったのだ。2セットということは、ライブセットのデータを急遽もう一つ作成する必要がある。開場まで時間が無い。僕は集中力をフル回転させてMPC4000にデータを打ち込んでいく。タケシも新たなサンプルプログラムの整理、泉ちゃんも曲順や繋ぎのタイミング確認に一生懸命だ。そして開場。間に合った。

 こういう場面で発揮される集中力の凄さには我が事ながら驚かされる。いつもライブ直前になると、我々の中に何か特別な力が湧いてくるのだ。体力も精神力も普段以上のハードディスク容量になっている。先ほどまでの疲労感や眠気は失せ、今僕らは気合いに満ちた表情をしているのである。
この特別な力の源は何だろう?音楽に捧げた情熱か?それとも夢に邁進する努力の日々か?
「モテたいからでやんすね?」
ポカリ。うるせーバカ、ホントのことを言うな、ホントのことを!
『ライブがうまくいけばモテる』、高校時代、僕らが楽器を買った一番の動機は思えばそんなことだったかもしれない。そしてこれが世界中のミュージシャンの歴史の中で連綿と受け継がれてきた最もピュアなスピリットであろう。いかに疲れていようとも時間が無かろうとも、セックスしてドラッグしてロックンロールなのである。

 フロアには開場直後から続々と人が詰め掛け、中には昨日来てたヤツらも見かけられる。
熱狂的なファンも集まったところでロックンロールといこうか!
今日のライブ最初のセットは2-3曲、フロアを盛り上げるための軽いジョギングのようなものだが、モテたい僕らは初めから全力疾走だ。
待ってましたと言わんばかりにグルーピーは大喜びで踊り出す。
昨日来てたヤツらなどは既に泉ちゃんの振り付けをマスターしており、皆を先導するように踊っているのだ。
やがて会場全体がヒートアップしてきたが、ここで終了。
イキそうになったところでジラす、キップソーンのテクニックだ。
「もっと!もっと!」と叫ぶオーディエンスであるが、もう1回やるからと告げてステージを降りた。
お楽しみはこれからってことだぜベイベエ。

 バブシーとクリストフのDJで更に盛り上げている間に、お客さんの数は倍にふくれ上がった。
僕らがステージに上がると、さっきのテクが忘れられない人達、キップソーン初体験の人達がステージ前に我先に近づいてくる。
フルセットのライブのスタートだ。
すでにヒートアップしているフロアは1曲目から大騒ぎとなった。
「ヴィア・スィント・キップソーン!」とドイツ語で泉ちゃんが挨拶。
これに応えて「ウォ〜〜!!」と凄いスクリーミングである。
ゴキゲンなサウンドにゴキゲンなグルーピー、そしてこのモテモテ感にゴキゲンなオレ達は激しく盛り上がる。
月曜の夜中だというのにパーティーは大盛況だ。
日本のロックスターの強烈な音の中、エンジン全開で飛ばす男女。
2セット目は焦らさず、エクスタシーに達するまで白熱していくのである。
最後の曲『ゴーゴーガール』の頃には皆恍惚の表情のまま踊り狂っていた。
イッたかな?イッただろう。と思いきや会場は「ツー、ガー、ブー!ツー、ガー、ブー!」の大合唱。
『Zugabe』=『おまけ』の意味で、アンコールを求める歓声なのだ。
一度フロアに降りた僕らは観客にしきりに熱い眼差しで催促される。
「もうメチャクチャにして!」ってことだ。
お前も好きだなベイベエということで、僕らは再び白熱のパーティーを続けるのだ。

 ライブ後、ハードロック風の男性が「すげえすげえすげえギグをありがとうよ!」と僕の肩をバシバシ叩いて大喜び。髪を青く染めたパンク風の男性が「オレが詞を書くからお前らが曲を作ってくれ!」と僕に熱っぽく語る。ライブを終えた僕の周りには何故か男ばかりが集まってきて離してくれない。嬉しいのは確かだが、できれば女性にも集まってもらいたい。CDバカ売れでイケメン男女に囲まれている泉ちゃんの所へ行こうとすると、僕のグルーピーの男達が「踊ろうゼ!」と僕はフロアに連れて行かれた。
「モテモテでやんすね!」
ポカリ。うるせーバカ、こちとらビミョーな気分でい!



バスがなかなか来ません


エンジニアのクリスとラブラブな二人


リハーサル中です


イベントのフライヤー


『B72』


眠そうです


眠ってます


バブシーとクリストフ。今日ははDJです


モテよう精神


DJにCDをプレゼント


この日、ツアー中最もCDが売れました
それよりクリストフのTシャツに注目


連夜のライブおつかれさまです


B72の真上は鉄道の線路なのです


明日は休みだ!思う存分


飲みましょう


乾杯!