2003Austria

 Mo 8. Sep

 午前7時、荷造りを始める。
・減った物
タケシのスーツケース、タケシのジャケット、販売用CD100枚、成田で買ってバブシー達にあげたお土産、免税店で買ったタバコ。
・増えた物
ウィーンの青い髪のパンク野郎のメールアドレス、泉ちゃんの大量のお土産、エロ本2冊、ジンバブエ出身のアカペラグループと交換したCD、グラーツのアーティストにもらった絵本とクッション、お土産屋でバブシーが盗んだジャム、性欲。
・どっちか分からない物
タケシの体重。

 眠気と疲れと二日酔いと寂しさで、僕たちはあまり会話を交わせずにいた。とにかく荷造りに専念しなければならない。僕らを空港へ車で送る予定のバブシーとクリストフだが、それまではすることもなく、僕らの荷造りをじっと見ている。そして荷造りが終わるともう8時、朝食を摂っている時間もなく、慌ただしく出発だ。
 荷物を積んで車に乗り込む。走り出してからはみんな窓の外のラッシュアワーの街をボーっと眺めており、視線を交わすことがない。「今日、月曜なんだあ…」などと、ポツリ、ポツリ、あまり発展しない言葉をつぶやく。『天空の城ラピュタ』の最後のシーンのように、窓外を走り去るウィーンの厳かな建物群を無言で見送るばかりなのである。

 空港に到着。走ってチェックインの場所を探す。ようやく場所に着いた時にはもうボーディングの時間であった。この時にいたって今日初めてみんなでお互いに顔を見合わせ、笑顔を見せた。バブシーとクリストフに感謝の気持ちを表すために、ドイツ語の粋な言葉を思い出そうと必死で頑張ったが、僕の頭の中に浮かんだのは「ダンケシェン」と「フェアトダスオトグート?(この車はよく走りますか)」であった。しかし後者は今更言うことではないし、第一、感謝の言葉ではない。たくさんお礼を言いたかったのだが、ただ「ダンケシェン…」と、精一杯の気持ちを込めて言った。ツアーの期間中あれほどあった時間を、どうして感謝の気持ちを伝えるのに遣わなかったのかと少し後悔したが、別れの時とはそういう思いを噛みしめるためのものなのだ。手を振りながらあっという間に互いの距離を開いていき、13時間後には僕らは地球の反対側に着くのである。
さらばバブシー、クリストフ、そしてオーストリアよ…

 日本に戻ってから、ぶっ壊されたスーツケースをめぐって、タケシはまたスイス航空と一悶着あったようだが、素敵な締め方にしたいのでそれはまた別の機会に。



ウィーンの街と別れ…


クリストフとバブシーともお別れです


また来るからね〜


別れは寂しいやね