2003Austria

 Do 28. Aug

 「オーストリアでは毎朝ジョギングをする」
と、宣言していたタケシ。
まだ誰も起きていないうちにひとりジョギングに出かけたようだ。
 彼の有言実行ぶりは有名で、過去にも「こいつだけは絶対に許さない」と決めた相手に対しては、どんなに困難であろうとも必ず仕返しをしている。彼が敵でないことは、僕の人生最大の幸運である。しかし味方である者の不運もあるわけで、僕と泉ちゃんはこれから毎朝、「今日ここまで走ってきた」と、タケシのジョギング自慢につきあわされることになる。

 朝食後、カバン屋へ行く。
昨日破壊されたスーツケースの弁償に必要な『修理不能証明書』という書類を、スイス航空指定のカバン屋に発行してもらわなければならないから全くめんどくせえ。
 ところで、スイスという国はEUの中では嫌われ者だそうで、クリストフは昨日、スイスTシャツを着たタケシを見て苦笑いをしていた。日本でいえば北朝鮮Tシャツを着て闊歩しているようなものなのだろう。
一方、泉ちゃんも昨日は靴下にサンダル履きという、おばちゃんが丸正に買い物に出かけるような格好で同じく失笑を買っていた。
 ウィーンに来て早々ファッション面での失敗をしてしまったそんな二人、今日はなぜか偶然にもペアルックなので、問題は悪化していると言わざるを得ない。
この昭和の新婚旅行客の周囲をぐるぐる廻りながら、ご丁寧に三脚までセットしたカメラで撮り歩いている僕の姿は、同行する旅行会社専属のカメラマンのようであり、何だかとても恥ずかしい。

 しかし本日は陽気にも恵まれて、お二人の門出にふさわしい佳き日である。
夏のウィーンの日差しは意外なことに日本よりも強い。しかし内陸性の気候で湿気が全く無く、日陰や風や空気自体は実にひんやりしており、地下鉄車内にも室内にも冷房は不要である。
 修理不能証明書を得た僕たちは部屋に戻り、渇いたのどをミネラルヴァッサ(炭酸水)で潤した。
日本の冷夏と湿度でカビの生えた体を日光で殺菌し、日本で最後に摂取された食事をウンコとしてトイレに流し去れば、我々は完全にオーストリア(主に肉)を受け入れる体勢となる。

 ではファンの期待を裏切らぬよう、肉を食おう。肉の盛られた皿もビールグラスも日本の物より二まわり以上デカイが、キップソーンの胃袋も日本人の平均より二まわり以上デカイので安心だ。
呆れてしまうほど大量に注文されたビールと肉を、ペアルックとそのカメラマンがひたすら自分の胃袋へ放り込む。
食物消化能力に定評のある頼れる主砲・大河原は、第一胃〜第四胃を駆使しての本日ビール6本目。
朝は走り込みを実践するものの夜は胃全体を肉で満たし、伊良部に似た重心の低い体を作る予定の中塚。
チームの勝利を考え渋めの犠打(他二人の尻ぬぐい…)の多い石垣であるが、とにかくどんなコースで攻められても全てストマック・インできる、地味ながらチームno.1の食欲を誇る。
 バブシーとクリストフが驚いている間に全ての料理をたいらげ、ビールと肉にまみれた『天国のロード』は幸先良く白星スタートということだ。
全国のキップソーンファンの期待に応えるため、僕らがツアー前に誓ったスローガンがある。

「とにかく食べたいんや!」



ジョギング自慢中


朝食の準備


なんともうまそう


破壊されたスーツケース
それより注目すべきはこのペアルック


カバン屋に行くところ


修理不能証明書を発行してもらう
それより注目すべきはこのペアルック


長いドイツ語の駅名


談笑中
クリストフは任天堂の『スマッシュブラザーズ』に熱中


ビールとオレ達


さて…


肉を食おう