2003EU

 Dienstag 28 Okt.


 起きるとテーブルにサンドウィッチが置いてある。
先に起きたロバートが僕らの分まで買ってきてくれたのである。しょっちゅう和田アキ子の曲を口ずさみ、日本名を『風魔』だと言い張る、ちょっとよく解らない感性の持ち主である彼だが、ツアーマネージャーとして色々気を遣ってくれているのだ。

 大学で日本学を学んでいるロバート。日本語の単語力をアップするためしばしば僕らに質問するのだが、今のところこのツアー中に覚えた単語は「ゲロ」「ゲップ」「オナラ」「鼻くそ」である。彼は和英電子辞書を持ち歩き、新しい単語を聞く度に用例を調べて、「はなくそ。『用例:こら、鼻くそをほじくるんじゃない』。なるほど…」という具合に理解を深めていく。こんな用例を載せているシャープの電子辞書もどうかと思う。

 ロバートの日本語はとても上手いのだが、時々ぶしつけな説明口調になることがある。
「特急が朝早すぎるから、チケットに変化が必要だ。」
「それはドイツでは普通の事だ。」
口頭で放たれるこれらの断定的な言い回しには文章で見る以上の尊大な印象があり、「テメエ何を偉そうに…」と悪いイメージを抱かせてしまいそうだ。

 そこでタケシが正しい日本語を教えてあげることにした。
「語尾に『ナリ』を付けた方がいい。」
「昔の偉いおさむらい様が使っていて、公的な場面で使う言葉だから、重要な面接の時に使ってごらん。」
テキトーな説明である。
半信半疑だったロバートだが、夕食でムール貝のワイン蒸しを食べている時ついに、
「美味しいナリ。」
とつぶやいた。
僕らは笑いをこらえながら「上品!」と言うのが精一杯だ。
しかしこの評価に自信を得た彼は「キテレツ、助けるナリ!」「ブタゴリラが来たナリよ!」と、僕らの教えるテキトーな言葉をことごとく復唱している。
かわいそうに、彼は『キテレツ大百科』を知らなかったようだ。おそらく彼は会社の面接の時、「貴社のグローバルな業務展開に興味があるナリ。」とコロ助用語を使い、僕らは一生恨まれることだろう。

 夕食後にロバートの友人達と一緒に行ったバーでも、「『美味しいなり』。これは昔の偉いおさむらい様が…」と友人達に得意げに説明していた。
 いいことを教えてくれたお返しに、ロバートは泉ちゃんにドイツ語の面白い言葉を教える。
「『イッヒ・リーベ・ディタ・ボーレン(私はディタ・ボーレンが好きです)』と言うとウケるから言ってみて。『ディタ・ボーレン』はドイツで有名なコメディアンだ。」
訝りながらも、泉ちゃんは早速彼の友人達に向かって言ってみた。
「イッヒ・リーベ・ディタ・ボーレン!」
ウケない。
仕返しをされたのか、「やっぱりウケないじゃんか〜!」とロバートの方を見るが、彼はひとりで大爆笑している。『ディタ・ボーレンが好きです』ってアンタ…と本気でツボにはまっているようで、キョトンとしている友人達をよそに腹を抱えてヒーヒー喜んでいる。

笑いの感性もちょっとよく解らない。



マリコのトイピストルコレクション。


あ〜よく寝た。


もう夜かよ!


じゃあ酒飲まなきゃ。


ウマカッタ〜。


ロバートの友人達と。


酒飲まなきゃ。


本日もアホなふたり。パンツ見えそうです。