2003EU

 Donnerstag 30 Okt.
 четверг 30 октябрь


 マリコの部屋を出る時、カーステンが挨拶に来てくれた。
カーステンは前回のドイツツアーの時、赤ん坊より手の焼ける僕らの身の回りの世話をしてくれた男性だ。
 今回はロバートが彼と同じ苦労を味わっているのである。酔っぱらって走り回る泉、コソコソとジョギングに抜け出すタケシ、キップソーンの連中はちょっとでも目を離すとすぐどこかへ行ってしまうので、飼育係は大変なのだ。キップソーンの中では割とおとなしい石垣であるが、彼の場合気を失ってあの世へ行こうとするので更に注意が必要である。
なかなか歩調が揃わない我々3人なのだが、今日ばかりはロバートもきっちりまとめようと努めている。

 なぜなら今日向かう先はロシアのサンクトペテルブルグ。街ではぐれてしまうと、日本人などたちまち『ネオ・ナチ』の餌食になるという。英語はほとんど通じないらしく、文字は『R』や『N』が逆さまである。夜の世界は「その筋の」人達が牛耳っているそうで、ロシアでのイベントはおおむね「その筋の」オーガナイズで行われるらしい。身を引き締めて行かなければ、今度は「気を失う」などという生やさしい結末では済まされないだろう。「ナメたらいかんぜよ」、いや、マジで!

 ロシアへの入国には事前にビザの申請が必要だ。ちなみにビザに書かれた僕の名前(Ishigaki Kentaroh)は、『ИСИГАКИ КЗНТАРО』。『ケー・さん・エッチ・たぽ』とはなんぞや。
プルコヴォ航空の飛行機の中でも入国カードという書類を書かされ、空港の荷物チェックも入国審査も他の空港とは比べ物にならないくらい厳重だ。
 いよいよ危険地域に突入するのだな、と緊張も顕わに空港ロビーにたどり着くが、英語を話すカチャとアンドレイの笑顔の出迎えに一同ホッと胸を撫で下ろす。アンドレイの車で夜の町を走り、ホテルへ向かった。

 サンクトペテルブルグも、アムステルダムやヴェニスと同じく『水の都』と呼ばれており、その名にふさわしく運河や川が縦横に流れているのだが、その川幅、町の規模ともに圧倒的にスケールが違う。

 とにかく何もかもがデカイのだ。

 東京の超高層ビルを見慣れた我々であるが、ここの建物の大きさというのは、何というか、横にデカく、しかも古い。古いのにデカイ、という異様さ、そして道路の両サイドから未知の巨大な生物に睨まれているような迫力が、僕らを震撼させる。言うなればそれは「建物が全部国会議事堂」という恐怖感だ。なんだそりゃである。
 ほとんどの道路が10車線(!)ということと相まって、僕らは自分の体が縮まってしまったような妙な感覚に陥った。光るネオンに『R』や『N』の逆さま文字が踊る夜のサンクトペテルブルグは、街そのものが、今まで味わったことのない(オランダとは別の…)トリップ感を提供してくれる。

 ホテル『オクチャブルスカヤ』は、これまた巨大だ。ワンフロアに100室くらいあるだろうか。泉ちゃんはシングル、タケシもシングル、僕とロバートは二人部屋というまたしても腑に落ちない部屋割りが敢行された。いくら仲良くなったロバートと一緒とはいえ、ダブルベッドで同じ毛布にくるまれるかと思うと気色悪い。

 近くのレストランでは、ロシア家庭料理がバイキング形式で食べられる。
列をなして、食べたいものを次々に小皿に盛りつけてもらい、キャッシャーで小皿の料理の値段を計算してもらって支払いをするのだが、僕が100ルーブル紙幣3枚を出すとレジの女は怒ったような顔で何か言ってきた。小銭を出せということかな、と思ったが、あいにくロシアに来たばかりでコインの持ち合わせは無い。
「I have no change.」
と説明してみたが、英語が通じなかったのか、聞こえないふりをしているのか、彼女は怒って同じ言葉を繰り返している。どうやら彼女はしきりにロシア語で値段を言っていたらしく、痺れを切らして紙に「220Р(ルーブル)」と書き始めた。ちなみに彼女が繰り返していたのは『ドヴェスチドヴァーツァチ(220)』であった。ワカンネーヨ…
 やっとのことで全員の料理が揃い「カンパ〜イ!」とやった後、ロシアの珍しい料理を写真に撮ると、店内にいた軍服の兵士に「写真を撮るな!」と怒られた。怒られてばっかりだ。しかし料理は野菜や海草が豊富で、とても美味しかった。

 レストランを出て付近を散歩することにしたが、ネオ・ナチがいたら恐いので4人でしっかり固まって歩く。途中でミネラルウォーターとタバコを買うと、タバコは一箱26ルーブル。1ルーブルが約4円なので、一箱120円かからない計算だ。

 ホテルに戻ってロバートと一緒のベッドで寝る。近距離に確実に半裸の男性が存在するかと思うと、かなり気色悪い。しかし可哀想なのはロバートの方だろう。自慢じゃないが僕は寝相が悪く、朝起きた時には大抵毛布がおしぼりのようにねじれている。ロバートは何度も上にのしかかってくる僕の足や手をその都度引き離して元の位置へ戻す、という作業を一晩中繰り返していたようだ。そして近くで聞こえる僕の歯ぎしりにも堪えられなかったのか、次の日起きた時にはロバートは地べたに寝ていた。



フランクフルト空港内の郵便局。


フランクフルト空港内のマック。


ルーブル紙幣です。


プルコヴォ航空のパンフには、「和食」が



と書いてあって失笑。


巨大な三つ星ホテル『オクチャブルスカヤ』


ホテルのロビー。


うまそうでしょ!!これがロシアの料理なのです。
(この後兵隊に撮影を怒られた。)


ネオンの文字も変テコです。