2003EU

 Montag 3 Nov.


 昨夜モスクワから帰ってきた僕たち。もうお馴染みとなったフランクフルトには、初めて訪れる都市のような刺激的な感動こそ無いが、その分僕らは落ち着きや安心感の中に身を委ねることができるのだ。スケジュール表に三度も書いてあるフランクフルト滞在だが、帰ってくる度に一度リフレッシュされるという効果を考えると、あながち無駄な行程とも言えない。存分に睡眠をとり、今日はチューリッヒ行きのICEでスイス入りとなる。いよいよツアーも終盤に差し掛かっている。

 ICEはチューリッヒ駅に到着。ホームで出迎えてくれたのは、今晩のイベントオーガナイザー・アレックスであった。荷物カートを押しながら彼のアパートメントへ歩いて行く。寒さも穏やかな曇り空、街はこざっぱりとして坂が多く、高級ブティックが軒を連ねている。綺麗な景観で観光客も多いはずなのだが、スイスで一番の大都市とは俄に信じがたいほどの静けさだ。
 10分ほどで彼のアパートに到着すると、木製の床や薪材の暖房器具、ルームメイト達によって温かく迎えられる。昨日のうちにここへ来ていたヨギが嬉しそうに「ケンタロウ、これ!」と渡してくれた物は、MPCの入ったバッグであった。バッグから問題児・MPCを慎重に取り出し、確認のために早速起動させる。見事にディスプレイが表示され、一同の拍手を受けた。さすがは精密機械王国・スイスである。修理の方法は別のMPCのユニットをただ付け替えるという、結構乱暴なものであったようだが、急ぎの客を優先させる心遣いが嬉しいではないか。
 部屋でゆっくり昼食をとり、のんびりと近くを観光する。この街には、これまでの強行軍で訪れた都市の興奮とは違った、とてもリラックスしたムードが漂っている。心の準備も、復帰した機材も、万端整ってすっかり安心してしまったが、「でも今日は月曜だから…」と心配性のタケシにたしなめられた。あの閑散としたベルリンライブの再来を危ぶんでいるのだ。

 アレックスのルームメイトのドミニクがライブ会場まで我々を乗せて行ってくれた。「一方通行が多いからゴメンね〜」と、道を間違えて必死でUターンを繰り返す彼の運転に、軽く乗り物酔いになりながら30分後ようやく到着。リハーサルを無事終えて、ライブハウスのスタッフ達と一緒の楽しい夕食となるが、やはり「でも今日は月曜だから…」という懸念が僕たちの気持ちの奥底に横たわっている。不安を察したのか、「心配いらないよ!」と僕らを盛り立てるアレックス。

 開場。
と同時に一人、二人と観客が現れ始める。5人、10人、15人…途絶えることなく会場の位置を占めていく観客達は、どうやら開場前から行列を作って待っていたようだ。更に増え続ける客数に、やがて僕らの居場所さえなくなり、てんでに散らばってしまって業務連絡もままならない状態になってくる。
 フタを開けてみれば300人近い観客が会場内をびっしりと埋め尽くし、入り切れない人達がキャッシャーを努めていたロバートと口論になる事態であった。月曜にもかかわらずこの集客、泉ちゃんは「ウレシ〜〜!」と感動しまくっており、それと話は全く別だがビールをだいぶ召し上がっている。
アレックスはベストを尽くした。次は僕らがベストを尽くす番だ。

 DJブースの裏で待機している時から、オーディエンスの視線をビシビシ感じるのだ。
鼻毛でも飛び出ているのかな?オレ。
そうではない。僕らがステージに上がった瞬間、大歓声で迎える彼らは、QYPTHONEの出番を今か今かと待ちわびていたのである。
更生したばかりの問題児・MPCに命令を与えると、モニターは小節数を素直に表示する。シーケンスに打ち込まれたリズムとベースが爆音となって流れ、打ち込んだ覚えの無い拍手が鳴り響く。会場いっぱいの観衆による迫力のインプロヴィゼーションだ。
泉ちゃんの登場で、観衆は高く手を挙げ「ワ〜〜!!」と歓声を上げた。
久しぶりのMPCでのライブ、フィルターやエフェクトの効果音も満載だ。タケシの百面相も冴え渡り、泉ちゃんも髪を振り乱してオーディエンスを導いていく。これこそ我らの真骨頂である。
会場内のあまりの人の多さに個人個人のスペースが確保できず、踊りは一団となって大ウェーブを産む。
「ダンケシェン!!」と最後の曲を終えてステージを降り、入り口に向かってフロアを通過しようとしたが、大勢の人達に行く手を阻まれ、再びステージへ押し戻された。
「ダンケシェン!!」泉ちゃんの覚えたドイツ語単語は少ないが、色々な意味を含めることが出来る。
アンコールではますますエキサイトしてきて、泉ちゃんがピョンピョン跳ね回り、タケシがキーボードスタンドをあっちこっちへ動かしまくる。
そのせいでステージ上に置かれたビール瓶が全てなぎ倒され、泡を噴出し、僕がそれらを元通りに立て直す。何だかわからんが、素晴らしいチームワークではないか!

 ライブ後のDJでタケシが『スイス国旗Tシャツ』に着替えると、会場は笑いと喝采でますます沸き上がった。アレックスがお祝いにケーキを持って来る。「ベストを尽くしたね!」「オマエモナ!」の図である。ベストを尽くす、好調・不調にかかわらず手を抜かず出来得る限りのことをしていれば、時には気まぐれな神様が今日のような万事順調の日を贈ってくれるのだろう。

 ドミニクの運転で帰る。行きに30分かかった道のりだが5分で着いた。ベストを尽くした彼に6倍の幸運が贈られたのである。



今日のICEはスイスへ向かいます。


チューリッヒ駅。アレックスが出迎えてくれました。


MPC直ったよ!


スイスといえばチーズよね〜。


カボチャのスープにも、


チーズを削り入れるのです。
左はドミニク。


薪。


チューリッヒの街並み。


素敵です。


ライブ会場にて。


みんなで夕食会。


見よ!このギュウギュウに詰まった若者の群れを!


アンコールに沸くみんな。


DJタケシは、


スイス好きを大アピール。


何あのTシャツ〜!


EU盤にサイン中。


踊りまくりです。


もうシッチャカメッチャカです。


乾杯!


アレックスがケーキをくれました。


まだこんなに踊ってる。


珍しく僕も壊れる。


どうもすみません。