2003EU

 Donnerstag 6 Nov.


 朝、マリコとアンドレアスが帰ってきた。日本から帰ってきたのだ。アンドレアスは日本で刺青を入れたらしい。勢いよくシャツを脱いで見せてくれたのは、まさに和風の遠山桜、お目付桜であった。「ぬぬぬ…ぬぬ…」ちょこざいな我々はグウの音も出ない。アムステルダムでのケチな悪行三昧を反省し、ひれ伏そう。

 アンドレアスはヨーロッパ最後の買い物に出かける僕らを送り出し、マリコと一緒に今晩のライブの準備のため部屋に残る。今日のライブはつきあいの長いSHIBUYAHOTの仕切で行われるため、何の心配も無く全面的に彼らに任すことが出来るのだ。頼もしいお目付役である。

 チーズや服やレコードなどを見たりしながら、見慣れたフランクフルトの街を歩きまわる。歩きまわるとロバートがすぐ泉ちゃんにちょっかいを出し、泉ちゃんが「ンだよ、てめえはよ〜」とキックをする、これもまた見慣れた光景だ。初めて会った頃には利口そうに見えていたロバートが、僕らと行動を共にしているうちに次第に正体を現し、ふざけてばかりのアホ学生になっていく…。
 しかしこれは、僕らと彼がお互いに心を開き合っている証もである。今や彼はQYPTHONEに無くてはならない男であり、一緒に居ても全く苦にならない、一心同体の存在になっている。一夜明けて明日になると彼はツアーマネージャーの任を解かれる。つまり、こんな光景も明日を境に見られなくなるのだ。

 こういう日はあっという間に過ぎてしまうものである。僕はアンドレアス達と一緒に会場準備に、タケシ達は『radio X』というFM局のインタビューへ向かった。ヨーロッパ最後のライブへ向けて始動する。

 リハーサルを終えてトルコ料理屋で夕食をし、着替えるために一度部屋へ戻る。アパートメントの前にある交差点に悪ガキどもがたむろしているのを見つけたロバートは「変なヤツラがいるから注意して。」と僕らに耳打ちした。交差点が赤信号になり、悪ガキの隣でストップしてしまうと、ロバートは果敢にも彼らと僕たちの間に立ち、面倒なことが起こらないように配慮してくれているようだ。
 些細なことだが、ツアーマネージャーとして立派な心がけだ。もしかしたら彼は、今までも見えない所で僕らを救ってくれていたのかもしれない。『ボディーガード』の世界だ。エンダ〜〜〜〜〜イヤ〜〜、である。


 ライブ会場となる『GOTO』は人いきれで、すでに大いに盛り上がっていた。アンドレアスとマリコはバーカウンターの中で客の応対に忙しく、「せっかく久しぶりに会ったのに、ゆっくり話せなくてゴメンね〜」と謝っていたが、恐れ多いことだ。僕らはみんなの奮闘があったからこそ、こうして楽しい旅をしていられるのだから。やがてロバートの友人達、スヴェン、クリス、カズさんと、続々顔見知りも現れた。役者は揃った。始めよう!

 僕とタケシは今日も黒タートルがサイコーにキマってる。
サイコーなオレ達はステージに上がると、繰り出した音と共に機械仕掛けのように動き出す。
腰を低く屈め、上半身を丸めた、いかにも怪しげなキップソーンフォームだ。
「キップソーンパーティへようこそ!」のムシ声サンプリングを連射して、タケシが観客のニヤケを誘う。
ホラ、ムズムズしてきただろう。踊れ!
ビートが突如メリハリを増し、たまらず動き出したオーディエンスは、泉ちゃんの光臨によって一斉に昴ぶる。「ワ〜〜〜!!」という歓声の中に「イッヒ・リーベ・ディタボーレン!!(私はディタボーレンが好きです!)」の掛け声。ひょうきんなロバートの友人達はそう叫ぶと嬉しそうに踊り狂う。
矢継ぎ早に繰り出されるアッパーな曲群に合わせて、観衆は休む間もなく激しいダンスに陶酔する。
感動のEUライブのエンディングを、拍手の渦の中で迎える。
拍手は鳴りやまない。
アンコールの大花火をぶっ放す。
ステージ横からタケシにEU盤『MONTUNO NO.5』を渡したヨギが「投げちゃえ!」と叫ぶ。
CDを撒き散らしながらヨーロッパ最後の夜が終わった。

 「あ〜良かった。またやりた〜い!」とヨギ。僕らの気持ちも同じだ。こんな素晴らしい体験は、企画者であるSHIBUYAHOT、ライブオーガナイザーやスタッフ達、ツアーマネージャーのロバートの尽力が無ければできなかったことだ。ベルリン、アムステルダム、エンスケデー、サンクトペテルブルグ、モスクワ、チューリッヒ、フランクフルト…、今回は一遍にずいぶんたくさんの都市をまわり、異なる文化に触れてきた。毎日が刺激的で、多くのトラブルに見舞われ、それを救ってくれる人の優しさに感動し、集まってくれた多くの観衆とともに楽しんだライブパーティの数々。SHIBUYAHOTスタッフ達全員とともにツアーの成功を祝う乾杯を交わした。

 シンとした部屋へ戻る。サザンのアルバムにある『旅姿六人衆』というバラードをふと思い出した。ライブツアーの協力者への感謝の念を綴った素敵な歌だ。
明朝、日本へ帰る。



散らせるもんなら、散らしてみやがれえい!


めんどくさいからって口だけで笑うのはやめましょう。


メガネ屋にて。ロバートはメガネのツルを直してもらう。
「暖めるとこんなに曲がるんだよ。ホラこ〜んなに!」
と思い切りツルを曲げられて、ロバートは 冷や冷やしてる。


チーズを買う。


トルコのファーストフードです。


乾杯!


アンドレアス、泉、マリコ


前回のドイツでお世話になったクリスと。



ヨギの無精ヒゲが凄くなってきた。


これにて


一件落着!いや、まだ日本のライブが残ってた!!